第25話 神殺しの刃
俺は、ありったけを込めて全力でギャラハッドを打ち抜いていた。
不意打ちが功を奏した。
奴の身体が巨大な魔王から吹き飛んでいく。
それでやつを倒せるはずもない。
「ンン~、まだ生きていましたか。頑丈ですね」
魔導サイボーグじゃなかったら十回は死んでいただろう。それくらいの衝撃だった。
実際、意識が断絶していたのだから相当だ。
「けどな、それで終わってたまるかよ」
ここで倒れたら俺は俺が赦せない。なにより本物の俺は俺を赦さないだろう。
ここで倒れたら熊谷を誰が助けに行くんだ。助けが必要だとは思えないが、眠っている間に思い出したことがある。
――いつか困ってたら助けてね。
それは約束だ。
助けるという約束だ。
違えるわけにはいかない近いなんだ。
「ああ、約束があるのを思い出した。だから俺は負けられない。あんたがどれだけ強くても」
「ンン~良い顔ですねぇ少年。しかし、どうするつもりですか~? わしを倒せる武器はないでしょう」
「ああ、ないさ。あんたがでたらめなのは良く分かった。だから――」
轟音を立てて背中の
メデューサの蛇髪のようにチューブのような多目的柔腕が這い出す。
「ンッン~、なにをするつもり、ですか?」
「黙ってみてな」
「そういうのであれバ、見ていましょう」
勝てないのであれば、通用しないのであれば。
勝てるようにする。通用するようにする。
つまり、今此処で新しい武装を作る。
骨格内積層武装格納庫と
ただ武装を格納するだけではない。マナを貯蓄し、そこから素材を取り出し状況に合わせて新たな武装を作る。
それが本来のコンセプト。
素材は四つ。
風と炎、水、土。
精霊が持ち得るその力そのものを加工する。
属性が足りない分は骨格内積層武装格納庫にある分を使う。エネルギー総量としてはバランスが悪いが、それでも力は十二分だ。
カン、カン、カン。
熱血を叩く音が響く。
カン、カン、カン。
刃金を叩く音が響く。
極光を放ち、静かにそれは遥かな熱を以て形となる。
形は剣。
片刃の剣だ。複数の剣を組み合わせて作り上げる巨大な大剣。柄のところに光り輝く宝珠が見える。
「それ、は……」
それはギャラハッドですら驚愕するもの。
当然だろう。
なにせ、それは超純度の属性のマナをそのまま剣という形に押し込め、密度を高めていき物質化すら成し遂げたのだ。
この世界の理を知っているのならばありえないと断じるものだ。
俺も詳しいわけじゃないし理解したわけじゃないが、空気が手に触れられるように物質化することなどありえない、だから驚いているとのこと。
厳密にいえば違うだろうが、俺の認識はそうだった。
だから、ギャラハッドですら瞠目する。
目の前で形作られた超兵器の異常さをこれでもかと理解できるうえに、何よりも――無から有を生み出すという神だけに赦された権能を目の前で再現されてしまっては、どんな歴戦の信仰者であろうともすべてを忘却の彼方に吹き飛ばすだろう。
理解できてしまうからこその間隙が生まれてしまう。
この刹那にギャラハッドは完璧に意識を剣に奪われた。
「報いを受けさせてやるさ――」
たかがクラスメートだ。だけどな、今はこの世界で唯一のクラスメートたちなんだ。
熊谷ならきっとそうする。
彼女が戻った時に誰か欠けていたでは笑われるし、きっと泣かれてしまう。
だから――。
「だから、俺は勝つ」
その手に掴むのは今にも破裂しそうなほど強烈な剣の形をした嵐だ。ちょっとでも気を抜けば制御を失い、この空間ごと弾け飛ぶ。
シーズナルとプリーミアの二人がかりでもこれを維持するのは数分が限度。
刻一刻と減っていくカウントダウンが視界に表示される。
精霊の力の割合で風と炎が強すぎるのだ。これでは不完全だろうが、機能に問題はない。
俺はその剣を腰溜めに構える。
破裂しそうな風船を必死に抱えるように、踏み込んだ――。
●
――来る。
長年を戦い信仰が神へと直接接続するに至った十三人の騎士の一人。円卓のギャラハッドは、今、数十年ぶりに呆然としていた。
ありえない。
理解できるからこそ目の前の剣の存在を看過することが出来ない。
ただ無から有を作り出したから驚愕したということもあるが、その大半は哲也の想像とは異なり、剣そのものがこの忘我の時間を作り上げていた。
それは不完全ではあるものの、この世に存在してはいけない代物なのだ。
いいや、数百年前に自らの手で屠ったものそれに他ならない――。
「機構聖剣、しかも――
思わず余裕を失い口調が乱れるほどに、ギャラハッドは数十年ぶりに新人のように見事に隙を晒してしまった。
いや、そうしてなお思索にふけらねばならなかった。
「ンン。少年が宿す力は器、そこに宿るのは、まさか――」
ギャラハッドは木村の腹の中に潜んでいた時から哲也の力は見ている。
空の器。
それは紛れもなく聖教に置いて最上の資質。聖人、聖女足りえる信仰の性質だ。
なぜならばそれは紛れもなく神を宿すに足る存在であるからだ。
そういった連中がどういう風になるのかは、ギャラハッド自身が証明している。人知を超えて神を成す。
主なる教えのままに神の走狗として走り続ける。
ならば、今現在、少年の中にあるものはなんだ。
風と炎。
それも最上位の力となれば――。
「いや、しかし――」
神秘が失われつつあるこの世界のどこにそれほどまでの信仰があるというのだ。
辺境を除き、世界から神秘が駆逐されて行くというのに。
ギャラハッドは珍しくも無様を晒してしまった。
意識を戦闘に引き戻し、目の前に迫る哲也に対し防御を取ろうと動くが、遅い。
彼がとったその数十秒にも満たぬわずかな間隙は、ここにあっては致命的だ。
「うぉぉぉおおおおお――!」
高まり続ける出力。鳴り続ける駆動音。
魔を断つ刃が放たれる。
轟音。
衝撃。
超縮退爆裂が如き威力で巻き起こる破壊の嵐。
迷宮内という別位相を引き裂く巨大な爪痕が走る。
ここで剣が不完全であることが幸いする。完成していれば、この空間なんて無事では済まない。
次元断層に生じた、この迷宮という世界ごと全てを無に帰していただろう。
それに破壊力という意味でもよかった。単純、振るった瞬間、それは破裂したのだ。
剣の形を保てずあらゆる総てを飲み込む破壊の嵐そのものとなった。
結果、この刹那に木端微塵と、位相そのものが砕け散った。
「ふ、き、とべええええええぇぇぇ――!」
轟雷が鳴り響き、稲妻が如き閃光が走る。
ギャラハッドは光に飲み込まれてこの空間よりはじき出された――。
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