第22話 爆発 出現

 魔法機関――【空の器は天上の夢を見るデイブレイク・ドリーマー

 俺の魔法機関は、俺という空っぽに相手の光を入れるというもの。つまるところ相手の能力のコピーだ。

 さて、信仰機関に通じるのかはわからないが、そこは通じるだろうという感覚がある。

 そういう感覚はきっと正しい。

 俺の器に一つの輝きが装填されたことを理解した。

「喰らえ――」

 振るわれる銀槌に対して俺は拳を振るった。

「――ッ!」 

 ここにきて少女が驚愕する。初めて表情が動いた。

 当然だろう。相手の信仰はこの大地よりも重たい。そんな一撃、先ほどとは違い、もっと練りこんだ。

 二撃目を必殺とするべく神へ祈りを捧げることで己に信仰を重さとして銀槌に装填していたのだ。

 だから遅かった。

 それ故に、その威力はまさしく本当に、正しく必殺だった。

 俺が素で受けたのならば間違いなく消し飛んでいる。

 だが、彼女の力をコピーした俺はそれを使って相殺できる。

 問題もあった。俺は彼女のほどの信仰心を持ち得ていないということ。信仰心の過多なら彼女の方が確実に重たい。

 だからそこはシーズナルやプラーミアとも協力した。

 神への信仰なんて重たいから熊谷をすくうだとか、そういったありきたりな感情を三人分薪としてくべた。

 よって燃え上がる重さは、多少だが形になる。

 一番重たいのがプラーミアの俺への憎悪だというのがまた悲しいところであるが、そういうことも言っていられない。

 山より深く谷のような憎悪のおかげで助かった。今はそれでいい。かろうじてだが、拮抗したのであれば――。

「そら!」

 あとはそのまま吹き飛ばす。

 驚愕により揺らいだ重さ。

 意図したわけではないが、良い感じにはまってくれた。おそらく彼女が一番、この中で火力がある。

 だから一番に潰させてもらう。

 空っぽの杯に宿ったものを捨てて、次は別の輝きを宿す。

 同時に取り出すのは破城篭手ツェアシュテールング・ファウスト

 対城に使われる巨大杭打ち。それをから起動する。もちろん効果はない、普通ならば。

「――がっ――」

 だが、拡張された間合いでなら話は別だろう。

 魔法結界にすら守られた極大防御を破る威力が叩き込まれ、鎧が砕け骨が砕け壁に叩きつけられる。我ながらエグイ。

「姫さん!」

「く、あれは僕の――」

『仲間がやられて揺らいでいる今です』

「ああ」

 最後に使うのはチンピラの信仰機関だ。

 単純明快、殴れば殴るほど威力が上がるというのなら――。

「百の腕で殴ったらどうなる?」

 骨格内積層武装格納庫を解放し、打撃兵装をすべてを補助アームに装備させ高速で打ち付ける。

 一打で百倍になっていく拳の威力。それを十回ほど叩きつけてやる。

 それはもう見てはいられない出力だ。

「ぐ、オオオォオォ!」

「これ、は――」

 折り重なるように少女と同じ座標に叩きつけてやる。

 だが、聖騎士がそれでやられるほど安くはない。彼らは信仰の殉教者。例え、どれほどの損傷を受けたとしても立ち上がるだろう。

 それほどまでに信仰は厚い。ぼろぼろになりながらも立ち上がろうともがいているのがその証明。

『だからこそ完膚なきまでに殺します』

『……殺す』

 殺意を滾らせるシーズナルとプラーミアにドン引きする。そこまでやる必要ないんじゃないかな。

 ちょっとさくっと倒すだけでいいはずだし。

『甘いですよマスター』

『……やはりオマエ甘い』

 なんで脳裏妖精は俺に厳しいの? 俺が悪いの?

『オレとしても頼むぜ』

 なんで脳内会議にしれっと混じってるんだ斎藤。

 突然俺の脳裏に響く斎藤の声。

『仮面の機能だよ、機能。さくっと倒すより色々対策する時間が欲しいんだよ。だから、完膚なきまでに倒してくれ。死にはしないが、ダメージくらいは残るからな』

「へいへい」

 クライアントから言われたのでは仕方ない。

 このまま出力をさらに上げながら殴りつけた。

 正直、ドン引きというか、俺としてはもう良いんじゃないの? と思えるくらいなのだが、転送されていないということはまだ死んでいないということ。

 もうぐちゃぐちゃのミンチになってもおかしくないくらいなぐっている。そこにダメ押しの炎と風が旋風となり完全に聖騎士たちを焼却した。

 いくら死なないとはいえどやっていいことを悪いことがあるのではなかろうか。

 と思う俺をよそに、彼らはようやく入口に転送されていった。ある程度傷が治って今頃は、宿屋であろう。

 鎧や武器などの一部がこちらに残っている。

 戦闘は終わった。

「さて――」

 大本命だ。

「よう、木村」

 仮面を外しながら俺は木村へと近づいていく。

「うわ、マジで甲野じゃん。どうなってんのソレ」

「いや、軽いな」

 どうにも想像した邂逅とはまったくもって別ものであった。

 思わずツッコンでしまったぞ。

「いや、十分驚いてるよー。めちゃくちゃ驚いてるってー」

「その割には全然だぞ」

「ま、そうでもしなきゃ、化け物みたいなあんたを前に正気保てないっしょ」

「化け物て……」

 いや、正しいといえば正しいんだけど、そう正面から言われるとへこむぞ。

「あー、ごめんて。そんなへこまないでよ。ジョーダンっしょ」

「はあ、とりあえず無事でなによりだよ」

「ウケる。あたしとあんたってただのクラスメートじゃん。心配される理由ないっしょ」

「異世界で奴隷にされてるんだから、心配くらいするだろ?」

「それマジで言ってる?」

「当たり前だろ」

「…………」

 なにやらじっとみられる。

「なんだよ」

「うわー、マジじゃん。こいつマジで言ってるし。はぁー、どんだけお人好しなん」

 なんで俺、木村にそこまで言われなくちゃいけないんだ。

 こいつに俺何かしたか? 何もしてないはずだ。

 というか例にもれず俺は木村とのかかわりが薄かった。

 木村はいつも一人でいたし、スマホをいじってた。それでクラスに溶け込めていないかと言われたらそうでもなくて、マイペースなのだ。

 化粧もアクセサリーもつけてて先生になにを言われようが気にしない。それなりに女子人気も高くて、何度か告白されているのを目撃したことがある。

 あ、思い出したら気まずいな。それもこれも熊谷が俺を連れまわしてくれたせいだ。

 熊谷の方はかかわりがあったが、スクールカースト上位勢に近づけるわけもなく俺はまったくかかわりがなかった。

 それでいったい何をしたというのだろうか。

『マスターですからね』

 いや、本気で何もしてないぞ。なに、気が付かないうちにやったんですね、とわかってますよ、という風なんだシーズナル。

「あー、だからごめんて。そう落ち込まないでよ、こっちまでサガんじゃん」

「誰のせいだとだれの」

「うち」

「自覚あるのが性質悪いな!」

「いやホントウケるんですけど。あんたそんな面白いヤツだったとか。異世界来ての発見だわ。いーじゃん、異世界。誰かのこういうとこみれんなら来た甲斐? ってのあるじゃん」

「おまえ、すごいな。前向きというか」

「は? いや、全然すごくないっしょ。すごいヤツはあんたや斎藤みたいなやつで、うちは全然。だって考えてみ? うち奴隷。あんたさっさと奴隷から逃げて好き勝手やってんじゃん」

「それは運が良かったというか」

「それも実力。運ってのはチャンスを掴めるかつかめないかを示してるだけだし。デキるヤツってこと」

「でも、それなら俺よりも木村の方が出来るんじゃないのか」

「あー、日本の価値の話っしょそれ。こっちの価値だとうちの方は全然。見てみ? あんたとうちの差。うち荷物運び。あんた良く分からない化け物」

 そういわれると確かに滅茶苦茶差があるように思えるが、というか化け物呼びはやめてくれよ。

「それムリ。だってほら、あの化け物ども一人で圧倒するとか、それ以上の怪物しかないじゃん」

「そうか? あいつら聞いてたよりは弱かったと思うが」

『ええ、弱かった。ですが、それは彼女らも本気ではなかったためでしょう。なにかしらまだ仕掛けて来るかもしれません』

 なるほど? シーズナルがいうのなら警戒しておいた方が良いかもしれない。何かあってからでは遅いからな。

「はは。それはまあ、そうかもね」

 なにやら歯切れが悪い気がするが、ゆったりと雑談をしている場ではない。

「いったん斎藤のところに行くか」

「そーだね。こんなとこ乙女のいるとこじゃないし。はよ連れてけはよ」

「わかったよ。とりあえず、その首輪壊すぞ」

「あー、はいはい。どーぞどーぞ。巨乳じゃないのに肩こるとかマジ勘弁」

 斎藤にもらったアイテムを使うと、首輪は容易く外れた。

「おー、楽になった。あんがと」

「んじゃ、行くぞ」

 斎藤に仮面で連絡を取り、居住区に飛ばしてもらう。

「お、おーおーー、一瞬で跳ぶのね、便利だな斎藤」

「帰ったかって、木村かよ……」

 斎藤は露骨にがっかりしていた。

「はいはい、ゴメンネー。八千代とか翔子じゃなくて。てか、斎藤、滅茶苦茶良い想いしてんじゃん」

 斎藤は現在進行形で女の子に囲まれてずいぶんと楽しげである。

「いやいや、オレだって心苦しいのよ。でもオレ、こうしないと死ぬし」

「キモ」

「率直に辛辣ゥ! 哲也、おまえからも何か反論してくれよ!」

「キモ」

「おまえもかよ! 仲良しか!」

「いや、ないから。甲野とはさっき初めて喋ったし」

「え、マジで? 哲也、少しは熊谷ちゃん以外にも目を向けろよ……」

 なんでそこで俺が斎藤に同情されなくちゃいけないんだ。

「はは、ウケるわ。このノリ。なんつーの? 平和なノリってやつ? 久々でなんか良かったわ」

「ん……?」

「助けてくれてありがとね。んで、最初に謝っとくわ、ゴメン。ま、でも大丈夫っしょ。あんたらなら」

「木村? いったい」

『警戒! マスター、マナが――』

 シーズナルの警告の前に、木村の腹が弾け、そこから血濡れの全裸が現れた――。

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