第4話

 ――その日の夕方。学校を終えて老婦人の家を訪れた少女が、ミルクを飲んで満腹になって寝ている仔猫を嬉しそうに眺めている。


「可愛い……ちっちゃい……可愛い」

「うふふ。そうね、ちっちゃくって可愛いわ」

「ぽんぽこりんのお腹も、ばんざいして寝てるとこも、可愛すぎてずっと見ていられる」

「あらあら。あなたも相当な猫ちゃん好きなのねぇ」


 仔猫を起こさないように小声で話す二人。蕩けそうな顔で仔猫に夢中になっている少女に老婦人が嬉しそうに呟く。


「あ、そうそう。大したおもてなしは出来ないけど、クッキーを焼いたのよ。よかったら食べてくれる?」


「わぁ! やったぁ! ありがとう!」


 嬉しさのあまり思わず大きな声を出してしまった少女に、口元に人差し指を立てて示す老婦人。はっとした少女も両手を口に近づけてそうっと立ち上がりダイニングテーブルへと移動する。


「おばあちゃん、ありがとう。この子達助けてくれて」

「あらあら。おばあちゃんの方こそあなたにありがとうって思ってるわよ」


 ふふっと笑いあう二人。そういえば、と少女が老婦人に尋ねる。


「ねぇ、おばあちゃん。この子達のお名前何にするの?」

「そうねぇ。最初は"クロ"と"シロ"にしようかしらと考えてたんだけど、この子達を病院で診てもらってた時にね、お医者さんが『それならフランス語の黒と白はどうですか』って教えてくださってね」

「わぁ……フランス語ってオシャレだね」

「ふふ。そうなの、なんだかオシャレよね。でね、黒はノアールだから黒猫くんは『アール』、白はブランシュだから白猫ちゃんは『シュシュ』にしようかと思うの」


 どうかしら、と伺うと満面の笑みで大絶賛してくれた少女とまた笑いあう――。







 ……温かな笑い声が聞こえる。重たい瞼を開けようとするも、ぼんやりとしか物が見えない。あのこどもはどうしただろう? ちゃんと愛されるいきものに生まれ変われただろうか?

 そんな事を思っていると傍らに小さな温もりを感じた。ぼんやりとしか見えない目でじっと温もりの方に目を凝らす。

 確認出来たのは真っ白な色。真っ白。そうか……お前も、オレサマも同じいきものに生まれ変わったんだな。


 ……すごく、すごくさむいとこにいたの。でもぜんぜんこわくなかったの。だっておにいちゃんがすぐそばにいてくれてるってわかったから。まもってくれてるってわかったから。もう、おこられることもなぐられることもないんだよね? おにいちゃんといっしょなら、どこだってだいじょぶだって、すごくあんしんできるんだよ。


 なぁ、お前も聞こえてるか? オレサマ達、猫になっちまったみたいだ。名前、つけてくれたんだってよ。お前の名前、シュシュだとよ。


 うん。おにいちゃん、ちゃんときこえてるよ。ねこちゃんになったんだね。ふふ、おにいちゃんのおなまえ、あーるだって。いいおなまえだね。


 お前の名前もいいな。めちゃくちゃサイコーな名前だよな。お前にぴったりな名前だ。ばあさんに聞こえねぇだろうけど、これからたくさんこいつを、シュシュを可愛がってくれよ。たくさん愛してあげてくれ。オレサマは守ってやるしか出来ねぇから。


 そんなことないよ。おにいちゃん。やさしいおばあちゃん、おにいちゃんを、あーるをたくさんかわいいかわいいしてあげてね。いっぱいすきっていってほしいなぁ。だいすきなおにいちゃんがしあわせになれるように、いっぱいいっぱいやさしくしてあげてね。


 ……バカ。お前も一緒に幸せになるんだよ。一緒にたくさん愛されるんだよ。

 うん。おにいちゃん、ありがとう。




「おばあちゃん、見て見て。アールがシュシュを抱きしめてる」

「あらまぁ……本当ねぇ。まるでお兄ちゃんが可愛い妹を守ってるみたい」


 ……ばあさん、守ってるみたい、じゃなくて守ってるんだよ。

 ふふっ。おにいちゃん、あったかい。しあわせになろうね。おにいちゃん。

 あぁ。絶対に。幸せになってやる。お前と一緒に世界で一番幸せになるんだ。





                     fin.

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ハロウィンの奇跡 ロージィ @rosytail

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