第14話
夜遅いせいもあってレストラン『小さな世界』の客はまばらだった。
店の一角に派手なドレスを着た女と労働者風の汚い男がいた。
「何でそんな服を着てんだ。ここはオモヤのすぐ近くだ。騎士団の奴らに見られたらどうする?」
労働者風の男はそう言って女の胸に目をやる。二つの豊かな膨らみがある。
「オレ達は国外追放の身だ。目立ってどうする? リモおまえ……化粧までしてるだろ?」
(すっぴんでドレスを着る人はいないよ。化粧しない方が余計ヘンじゃないか。大丈夫だよルガー。娼婦と客に見えるよ)
「ホントおまえはどこかズレてるな。フードを目深めに被るとかでいいだろ。どこで用意したんだその服」
(王子に貰ったんだよ)
「王子? 王子って……ピスタ王子か?」
(そうだよ。王子は明日の戴冠式の後でトクビルを法廷の場に引きずり出してくれる)
「信じるのか?」
(信じる。王子は希望だ。僕にとっても、マレクにとっても)
「そうか。なら良い。お前の判断を信じるさ」
(ありがと、ルガー。これ見て)
リモは自分の胸元に手を入れて服の中から黒い玉を二つ取り出した。
「すげぇトコに隠してんなぁ」
(女の服にはポケットが無いんだよ)
「マールの使った爆弾だな。どこにあった?」
(トクビルの隠し部屋だよ。鉱山で使う発破を利用して作られてる)
「マールにやらせたり、オークにやらせたり、汚ねぇ野郎だ」
ルガーはほんのり温かい爆弾を腰の革袋にしまい込む。
(でオストラス山はどうだったの?)
「お前の推測通り、ドラゴンは生きてたし、オストラス山の地底湖は海に通じてる」
(海底トンネル?)
「多分……」
(多分?)
「遺跡の中で地底湖に飛び込んだ。んで、湖の中であっちこっち流された。岩にでも頭をぶつけたんだろ。気ィ失った。で気付いたら海に浮かんでた」
リモはルガーの目を見た。
「んで、そん時にシネフィルを無くしちまった。眠り込んでるドラゴンの姿をバッチリ記録したんだがな」
(シネフィルに記録? エルフと接触したの?)
「よくわかったな。エルフに貰った。あっちじゃシネフィルに映像を記録するんだぜ。知ってたか?」
(うん、本では読んだことある。見てみたかったな)
「わりぃ」
(でもいいよ。王子のおかげで、もうドラゴンが生きてる証拠は必要ない)
「何にせよ、ザマぁねぇ」
(そんなことない。ありがと)
リモはルガーにしっかり向き直るとルガーを見つめた。
ドレス姿のリモは本当に美しかった。照れたルガーは目を逸らす。逸らした視線の先に料理を運んできたウェイターの姿が目に入った。
「おっ、丁度来たぜ。オレは拉麺。おまえは蕎麦だ」
(何それ?)
「知らねぇのか? 弩匈の食いモンだ。こうやってハシで食うんだ」
ルガーが豪快に麺をすする音が響いた。
(音を立てていいの?)
「そうさ。麺をすする音を立てるのがマナーだ」
(本当? なんだか恥ずかしいな)
リモは器用に箸を操って音を立てずそばをすすった。
「それじゃだめだ。まるでなってねぇ!」
リモは赤面しながらズズッと音を立ててそばをすすった。
「それでいい」
(おいし……)
「だろ?」
しばらく二人は派手な音を立てて黙々と麺をすすった。
(ねぇ、ルガー。犯罪の原因は何だと思う?)
リモはハシを止め、窓に映る自分のドレス姿を見つめながら言った。
「唐突だな。金と女だ」
(じゃあ、男が犯罪を犯す確率は女の二倍だと思う?)
「女目当てで犯罪を犯すのは男だ。金が欲しいのは男も女も一緒だ。だから理屈上はそうなるな。だがどう考えても男の方が犯罪者が多い。五倍くれぇか」
(……十倍だよ)
「何が言いたい?」
(……何だろ……)
リモはそっとハシを置いた。
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