第15話
「すげぇ人だ。王都が人の重みでくずれ落っちまうぜ」
ルガーの軽口にリモは黙ったままだった。
王都の至る所――広場、道、建物の屋上に人が溢れていた。
王都で一番広い広場である教会前広場も見渡す限り人の海だった。
ルガーとリモはフードを目深く被りその中にいた。
城は崖の最上部付近にあった。王都の他の建物と同じように崖に張り付く出窓に見える。その出窓の上に乗っかるお盆のような構造物が空中庭園だった。
空中庭園のフチから白い帆布が何十枚も垂れ下がっている。
「でけぇ帆だ。輸送船の帆よりでけぇ。あんなの吊るしてどうしようってんだ?」
(あそこに裏からシネフィルで映像を投影するじゃないかな。戴冠式の様子をみんなが見えるようにね)
ルガーはリモを見た。大きな瞳で帆を見つめている。
「なぁ……リモ。おまえ姉妹はいるか……」
(……あっ! 写ったよ!)
帆布に空中庭園の映像が写し出された。
皆一斉に皆帆布を見上げる。
白いテントの下で談笑する各国の参列者達が映し出された。別の帆布は金の玉座に座るピスタを写した。ピスタは精悍な顔つきで玉座に収まっている。
「玉座ってのは空中庭園にあるモンなのか?」
(城の中にあるはずだよ。運び出したんだろうね)
白地に豪奢な金糸の刺繍が入った法衣を着た老人が王冠を持ってピスタに近寄る。
「誰だ?」
「司教様じゃよ。わざわざサヴォンから来て頂いたらしい。有難いことじゃ」
ルガーの隣にいた老人が答えた。
司教が何かを言っている映像が映る。シネフィルは映像のみで、音声を伝えることはできない為、何を言っているのかは分からない。
しばらくするとピスタは玉座を降りて司教の前に歩み寄る。
ふらつく足取り。
(王子の様子がおかしい!!)
ピスタは苦悶に顔を歪めていた。
顔中に虫に刺されたような跡が浮きはじめる。両頬が膨らみ、口に何かを含んでいるかのようだ。
市民たちもざわつき始めた。
「どうしたってンだ?」
ルガーはリモを見る。リモは真っ青な表情で王子を凝視している。
王子が地面に膝を着く。
(……毒!!)
リモが言った直後、広場のあちこちから、悲鳴が聞こえた。
帆布にはピスタが嘔吐している様子が映っていた。
リモの目から涙がこぼれる。
嘔吐したピスタが地面に倒れこむ。
駆け寄るトクビル。
シネフィルの映像はそこで切れた。
雲一つ無い晴天の下、何も映っていない白い帆布が揺れていた。
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