第13話 魔導刻印


 さて、いつまでも休んでいられない。

 鉄砲が使えないとわかった以上、次の行動に移らなければならない。

 近接武器の補強もしたいが、まずは鉄砲に変わる飛び道具、つまり魔法を習得すべきだ。


「というわけでシキ、近接武器の補充の前に遠距離攻撃手段だ。俺が最短で攻撃魔法を使えるようになるにはどうすればいい?」

「いきなり投げましたね」

 なんとなくシキがジト目をしているような気がする。


「範囲ではなく、個体に対する魔法で良いですね?」

「もちろん」

 さっきホムセンでシキが否定した通り、範囲攻撃魔法はさすがにムリなのだろう。


「さっきは作動しなかったけど、有効射程十ジィ程度で単体の敵に重傷を負わせられるのが地球の拳銃だった。その代わりになれば十分過ぎる」

 あくまで牽制用。こちらが魔法を使えるとわかってくれれば最低限の用は足りる。


「場所を移しましょう。すこし作業をする必要があります」





 シキに『明るくて、逃げやすく、索敵しやすい様に視界が開けている場所』と言われたので大通りに面した車のショールームを選んだ。

 いつもなら受付嬢が座っているカウンターの内側に半分身を隠すように座った。

 電気が落ちているので外がやけに明るく見える。

 それだけに人が一人もいないというのがいっそう異常だ。


「では『魔導書・刻印用例集』と刻印具、魔導カッター、それと拳くらいの凝血石を数個出してください」

 開いたブック(シキ)から言われたものを取り出してカウンターの上に乗せた。

「では最初に凝血石をカッターで薄くスライスしてください。枚数は魔法を使う回数分より少し多めがいいですね」

 石をスライス……? と思ったけど、やってみるとイノシシの半解凍ヒレ肉を薄切りする感覚で出来た。

「次に、魔導書の最初の部、火の部ー火の章ー火の節ー火の項を開いてください。『火球』の魔方陣が描かれていますね。指示通りにさっきスライスした凝血石板に刻印具で魔方陣を掘ってください」


 文字は日本語ではないのにすらすらと読める。

 不思議すぎるけど、異世界あるあるだ。一々聞いても仕方ない。とにかくやろう。

 黙々と必要な枚数分だけ作成していく。彫刻なんて小学生の版画作成以来だ。

 複雑な、アラベスク模様と電子回路を合わせたような模様を刻んでいく。


「終わりましたね。では一旦すべて収納してください」

 収納すると、先ほどまで掘っていた凝血石版がの名前が変わっていた。


「火球の魔方陣(中)? これで『火球』の魔法が使えるのか?」


「ええ、本来は適切な石版を数種類重ねて凝血石を魔力の源として発動させます。今のように原魔法を凝血石に刻むなど、非効率的な事はしません」

 なにやらシキさんの機嫌が悪い。


「ええと、ちなみにどれだけ非効率的なんだ?」

「きちんとした魔道具に仕上げれば、その凝血石一枚で火球五十発は撃てます」

 ……五十!?

「ストレージに在庫が潤沢にあるため今回は緊急的にこのようなモノを作りましたが、早急に魔法を覚えるか正規の素材で杖など攻撃用魔法具を作ることをおすすめします」

 五十はたしかに…ん? 杖? 杖って確かストレージにしまわなかったか?


『リブロスの杖』


 俺の杖なんだからそりゃそうだろうよ!

 ストレートなストレージの中の名前をみてつっこんだ。

 じゃあ詳細だよ詳細。

「リブロスが所有している杖。非常に精緻な集積魔方陣が複数配置されており、もはや神の使う神具といっても過言では無い。ただしその分要求される魔力操作などのスキルも多く、現在のリブロスでは使用不能」


 なんでこのフレーバーテキストに俺の名前と現状が書かれているんだ?

 疑問に思っていると、耳元でシキが話していた。


「……これもしかしてお前がつくってる?」

「当たり前です。私はストレージなんですよ?」

 これは鑑定というアドバンテージをもったストレージ全般がそうなのか? それともシキが特別にアレなだけだろうか。


「とにかく、魔法具の事は一度置いてください。即席の火球魔道具の練習をしますよ」

「お、おう」


試し打ちっていってもここ屋内だし、起動して光って終わりとかだろう。

カウンターから外に出ていくつもの車の前を通る。この辺りは車が混んでいて試験が出来ない気がする。

結局一番端にある高級車のフラグシップモデルが展示されている前でやることになった。


「いいですか、基本的に私を開くのと一緒です。左手に意識をして五指を開く。今回は右手で同じ事をやりつつ、ストレージから魔道具を出して目の前の的に向けます」

 なるほど? 言われたとおりにやると確かに先ほどの魔道具が掌中に収まった。

 体内の魔力に呼応しているのか、凝血石の回路は淡くオレンジ色に光り、中央は既に準備が整っていると言わんばかりだ。


「そして、おもむろに『ファイア』」

「ファイア」


——ドゥ、バァァァン!!


 火球が直撃したフラグシップモデルは大音響とともに大破した。

 燃えさかる炎の影で『……といったら発動するんだからねー』

 とか聞こえた気がした。


「シキ、このタイミングで何してくれてんだ! これ周囲の魔物とか全員押し寄せてくるぞ!」

 

「想定内です。今のうちに離脱し、武器がある地点に向かいましょう」


 しれっと言ってのけるシキだけど、これ絶対想定外だろ!?







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