第11話 第一ゴブリン発見
「――ッ!」
カウンターの影で身をこわばらせる。
生き残りの日本人か?
(シキ、何がはいってきた?)
(ゴブリンが一匹入ってきました。周辺に他の『魔物』の気配はないですね)
シキいわく、人型の敵性生物は魔物で、魔獣とは違う存在らしい。
白色地帯にも出現するのでやっかいだ。
社会生活を観察する限りでは知能はあるが、会話を試みても問答無用で戦闘になる。
よって彼ら魔物は魔獣と同じ駆除対象ということになっている。
俺も害獣駆除という名目で罠につかまったイノシシや鹿にとどめを刺していたので今更命がどうこうというつもりはない。
しかしそれでもだ。人型でも害獣なので駆除してね? と言われてもすぐハイとは言えない。
道具の準備はできていても、心の準備、言い訳が必要なのだ。
「動くな!」
ようやく覚悟を決めた俺は立ち上がりカウンター越しに銃をかざす。
銃口の先には不健康そうな緑の肌ととがった耳をした、いわゆるゴブリンがいた。意外なのはそれなりに筋肉がついている事とモヒカンである事だけだ。
「え、なんでモヒカン?」
思わず口にしてしまうが、銃口は向けたままだ。
相手は此方を見て、銃口をみて、また此方を見た。
「ゲッゲッゲッ」
一瞬おろどいた顔をしていたゴブリンだったが、直後には笑い始めた。
なんだ? こいつはなんで笑っている?
手にはマチェットナイフをもっているし、嫌な予感がする。即座に引き金をひいた。
――ガチッ
弾がでない。不発。
排きょう、再装填、不発。
銃砲店の親父は弾をケチったり整備をなまける様な性格じゃない。
(シキ、なぜ銃が撃てない?)
(物理法則がナザレア式に変わったためです。ごく簡単に言えば、ナザレアの優位性を保つため、脅威となる地球の技術はすべて凍結されました)
忘れていた。そういえばガイドさんが言ってたな。地球の技術が禁忌に触れたって。
吸収された後もそれらが使えたらおかしいよな。
「ゲッゲッ」
このゴブリンはたぶん銃が使い物にならないと知っていたんだろう。ためらいなく此方に近づいてくる。ハサミは少し離れた壁に立てかけてある。ストレージに入れていなかったのはしくじった。
俺は”弾”を装填し、ゴブリンの眉間に照準を合わせた。
ゴブリンは助走をつけてカウンターの上に飛び乗ると、そのまま俺に斬りかかろうとしたが、そのまま俺の横に崩れ落ちた。まだ痙攣している。
「調子に乗ってカウンターに飛び乗ったりするからだ」
ゴブリンの口にはセミがおとした金属ストローが刺さっている。
拳銃の銃口に差し込んでつくった即製の刺突剣だ。
「魔獣につづいて魔物、初駆除か……あ、シキ、索敵をしていてくれ。少し休む」
釈然とはしないけど、会話は成立しなかったし威嚇しても逆に襲ってきた。正当防衛は十分成立する。
念のため休憩はするけど、しなくても問題ない。人型でも倒してしまえば黒い泥になって沈んでしまうんだ。
「マチェットも手に入れたし、順調だな。さーてと、ドロップはなにかなっと」
油断していたのかも知れない。ゴブリンが消えた後に残っていたのは最低な真実だった。
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・器用貧乏な罠師は逃亡中でも趣味に走ることをやめない
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