第10話 ○○とハサミは使いよう


「人が多い場所ほど魔獣が集まるか……」


 灰色の区画では絶対に密集しないことを覚えておこう。


——ドッ

 突っ込んでくるネズミっぽい魔獣の前に石を投げる。よけてスピードが弱まった所に苅込はさみを突き刺す。


 言うなればヌートリアが好戦的になっただけだ。集団で来られたらやっかいだろうけど、単体なら何と言うことも無い。


「それにしても、こういう倒し方では経験値が入らないんだな」

 ハサミを使うときにバフがかかる「ハサミ術」の練度は3にはなっているけれど、レベルは最初の方でレベル2に上がったきりだ。

「経験値は文字通り”経験”の豊富さです。ルーチンワークでは経験は得られません。ちなみに私に質問をしてから行動すると経験値は大きく下がります」

 

 む、そうなのか。生き延びるなら経験値は必須だけど、死んだら元も子もからな。聞き所は大事かもしれない。

 シキによれば、豊富な経験の組み合わせが新たなスキル獲得につながるらしい。

 例えば剣術のスキルを生むためには素振りより戦闘の方が効率が良いということだ。


「そういえばハサミ術以外で俺のスキルはどうなっている?」

「『独り言』スキルです」

 やっぱりつきやがったか。

(スキルの効果としては私との会話が念話になります)

(それさっきからやってただろ)


「スキルは経験値と違い、使えば使うほど伸びていきます。最初は低位スキルでも練度を上げていき位階が上がったり、統合されていったりします」

 

「魔獣は倒すほど戦闘スキルは上がるわけか。やっぱり早めに銃をとりにいくぞ」

 行き先には複数候補があったけれど、使うほど伸びるというなら、序盤から強い武器を使い続けた方がのびしろはありそうだ。やはり攻撃力は大事だな。





「Oh……」

 雑居ビルの一階にある「矢坂銃砲店」は既に荒らされた後だった。

 ここが白色地帯、魔獣がいない事を考えると、考える事は皆同じ、ホムセンがテッパンなら鉄砲もテッパン、ということだな。


「これは根こそぎやられたかな……」

 シャッターの鍵の部分はなにか斧のようなものでめちゃくちゃにされており、商品がならんでいた棚には一つの銃も無かった。


 今日店主は隣県の射撃大会のため不在だ。

 当然戸締まりは完璧だっただろうが、こうまで強引にやられたらどうしようも無い。


 そう言いつつも、俺は歩みを止めずに店のカウンターに入った。 

 当然ここもあらされ放題だけど、俺の目当てはカウンターの裏側だ。鉛筆入れに雑に突っ込まれたボールペンの中から太く黒いペンを取り出す。

「とりあえずこれはもらっておこう」

 タクティカルペン、要するに握りこんでペン先で刺す金属製のペンだ。店主は必要もないのに備えをしている男だった。


「よし、やっぱりまだあったな」

 普段から状況を分析し、準備を怠らないだけの能力と余裕のある矢坂さん。

 安心のためならば違法行為もする男だった。


 カウンターの裏側にある米軍由来の拳銃を取り出して苦笑する。

 店主には悪いが使わせてもらおう。どうせ射撃大会会場にいたんだ。自前の銃があるだろう。


――ジャリ


 動作確認を終えたとき、店の入り口で、ガラスを踏む音が聞こえた。

 






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