第9話 エンジョイしているのは。
――ガァン! ガァン!
『ゴァァア!』
『キェェェ!』
『ギチギチ』
エンジョイ山田では魔獣たちが攻城戦をしていた。
ネズミ、バッタ、アリ……やっぱり犬くらいの魔獣が多い。
というか、全部地球の小動物をそのまま大きくしたような外見だ。
遠くでよく見えないが出入り口は固く閉じられていている。魔獣が攻撃しても持ちこたえているということは中には相当バリケードが積まれているんだろう。あれじゃ今から入るのは無理だ。しかしなんで魔獣が群がっているんだ? ダンジョン区画だとしても、あの数の多さは以上に思える。
「シキ、魔獣はなんであの建物を攻撃しているんだ?」
「あの建物には地球人が多くいます。すべての魔獣はヒトを好んで食べるため、匂いにつられて集まってきたのでしょう」
まじか……
身を守るために集まったのに、逆に魔獣に狙われてしまうということか。
急いでブックを開く。
「リブロス様、何をさがしているのですか?」
「なんでも良い、エントランス周りの魔獣を一掃できるなにかだ」
脱出口を作ってやれば中の人は逃げ出せるはず。
そう考えてさっきからブックを開いてストレージの中身を確認しているが、無い。
さっきセミを倒せたのは死にかけで一匹だけだったからだ。素早く動く魔獣の群れに煙幕は使えない。
「なぜ私にたずねないのですか?」
シキから少しあきれたような、哀れむような声をかけられる。
「なんでもシキに聞いてばかりじゃ成長しないからな。独力で考えているんだよ」
事実そうだ。体力だけじゃなく思考力も鍛えていかなくてはいけない。
バリケードの前にはこの世界の道具と魔獣の素材が散らばっている。それなりに善戦したようだ。
とりあえず長柄の挟み撃ちできるか? いや、そもそも俺に攻撃手段がない。
車で突っ込むか? いや突っ込んで正面の敵を倒せたとしてもバリケードが邪魔ですぐに避難したヒトを逃がせない。第一ダンプカーじゃないんだ。すぐそこにある大型SUVでも十匹くらいひいた後に動けなくなるのがオチだ。
「答えはでそうですか?」
俺は黙ってブックをパタンと閉じた。
「いいや。なにかいい手は無いか?」
思考力を鍛えるのも時と場合によりけりだ。ある程度考えて答えがでないなら、他人に相談するのが賢い選択だ。
「ありません。あなたのレベルは1、魔法を含むスキル取得、道具作成も短時間では不可能です。エルフから譲られた腰帯の道具も対多数のものではない上に、既に使い尽くされています」
シキの答えは俺が導き出した物と同じだった。
「そうか……」
足下に転がっていた年期が入った苅込ばさみを拾う。
これを使っていた庭師はまだあの中で生きているだろうか?
土壇場でいい手を思いつく、なんて普段から色々考えていないと難しい。こういうこともあろうかと、などと言えるのは普段から状況を分析し、準備を怠らないだけの能力と余裕のある者だけだ。
だれが世界が融合するなんて予想できた?
「シキ、撤退だ」
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