第8話 初めてのミッションが重い。
階段から沢におり、エルフに近づいていく。
服装は緑一色だ。俺が着ている服と同じ様式だけど、軽装鎧を着ているし、どことなく軍服に見える。
こちらからでは顔は見えないが、瀕死の状態だ。小瓶に入ったポーションを取り出して手に持つ。
(どうするのですか? 手持ちのポーションでは助かりませんよ?)
(でも情報はきけるかもしれない)
シキに小声で答えてエルフに近づいていく。
「おい、しっかりしろ」
しばらく呼びかけていると反応があった。
身体を隣の石にもたれさせ、ひどい腹の傷にポーションを振りかけた。
「一般人……いや、文官か……なぜ……」
意識を取り戻したエルフだったが、視線は定まらず、声を出すたびに苦痛に顔をゆがめる。これは急ぐ必要があるな。
「余計な詮索はなしだ。手短に言う。何をして欲しい?」
このエルフは助からないだろう。
エルフはまぶたを閉じ、わずかに沈黙した。
「……俺の腰帯を外して、黒い瓶をくれ」
再び開いたエルフの目は、とどめを待つ動物のそれと同じだった。
用心しながらベルトを外し、複数あるポーチの中を探っていく。何個目かのバッグからそれらしきものがでてきた。
「……あんな奴を野放しにはできない。気楽に斥候を引き受けたが、しくじった……」
受け取りながらつぶやいたエルフだったが、やはり苦痛が勝るのだろう。最後の声は荒い息づかいに変わっていった。
「……おい、文官、その腰帯は好きにしていい」
それだけいうとまた沈黙した。さっきより呼吸が浅く、はやい。
「わかった。代わりに何をすれば良い?」
今際の際だ。何かは頼むだろうとは思っていた。
「中の青い書類を……中央第三銀行まで、持って行ってくれ」
「書類? この青い奴か」
遺言書かなにかだろうか。黒い薬と同じポーチに小さくたたまれているが上質な紙でできた書類がでてきた。
これも何かの縁だ。どうせ都城には行くし問題ない。
(リブロス様。大型の魔獣の気配が近づいています!)
腰帯をつけてポーチに書類をしまっていると、索敵をしていたシキが早口に報告をしてきた。潮時だ。
エルフを見ると、川のの流れを指さしていた。獣は鼻がきく。川の中を歩いて行けば逃げ切れるということか。
「じゃあな」
返事も待たず俺は川に飛び込み、水音に注意しながら急ぎ足で下流に向かった。
しばらく川の中を歩き続け、川幅も広がってきた。
――バヅッ!
電線がショートしたような音がしたので思わず振り返ると、遠くに黒い球体の中で青い雷が乱れ飛んでいるのが見えた。
「――無事、巻き込めたでしょうか」
シキが静かにつぶやく。
「魔力を暴走させる自爆用ポーションか……」
黒い瓶を取り出した時、俺は瓶をストレージに入れて中身を確認していた。
「兵士の最後は自爆か。どこの世界も、似たようなことを考えるな」
託された書類が入ったポーチに手を当て、雷が収まるのを見ていた。
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