第2話 世界が融合した事情

 そうして語り始めたガイドさんによれば、俺のいた世界とファンタジーな異世界は良い感じにフュージョンしてしまったらしい。

 二つの世界の神様同士が合意して融合させたという。

 そもそも人間が住む世界というのは、どの世界も神様が運営している会社のようなものらしい。

 神々が主神を中心としてチームを作り、人間を導き世界を発展させていくというわけだ。

 で、うまくいっていない世界が売り買いされるというのはたまにあるようで、今回地球はナザレアという世界に吸収されたらしい。俺がこの世界に来たのはそのためだった。


「それでいうと、地球の経営は失敗したという事ですか」

 確かに環境問題とかあったけれど。

「そうだ、文明の発展という意味では上位に食い込んでいたけれど、核とか遺伝子操作とかタブーをいくつも犯し始めたからな。しかし決め手になったのは神を扱った官能的な創作物だ。潔癖なアルテミスが特に怒っていたよ」


 同じ世界を何十回何百回と消滅させると時空の乱れが他の世界にも波及する、大変危険なので融合させた。ということらしいが、むしろそれよりアウトだったのかエロ同人……神の逆鱗が人間臭すぎる。


「……まあ、壮大な話なので、なんといったらいいのか。それで、私がこうなった理由は?」

 身体の周りを改めてみる。バランスが崩れて少しだけ違和感がある。

「外見が気に入らなかったかね?」

 ガイドさんがどこからか大きな鏡を取り出してみせた。

 そこにはやはりエルフ。どことなく自分の面影を残したエルフがいた。なんとか自分と認識できる。

「とんでもない。二枚目になって気に入ってますよ。昔の面影があるのも親しみがあっていいですね」


 そうか、となぜかほっとした様子でガイドさんは笑顔をみせた。

 いや、外見も気にはなっていたけど、そうじゃなくてね?

「あなたが私のガイドをしてくれるのはなぜですか? 世界の真相まで話してまでさせたいことは?」


 ただの親切でガイドが現れるわけがない。何か理由はあるだろう。

「ないな」


 え、ないの?

 怪訝な顔に気づいたのか、ガイドさんは慌てて言葉を継いだ。


「いや、具体的すべき指示はない、ということだ」

 じゃあふわっとした指示はあるっていうことか?

「させたいことは無くても理由はある。神は私のような古い使徒を昇天させ、新ナザレアに新たな使徒を置こうとしている。君はその候補者となったのだ」


 もしやそれは選ばれし者とか言う奴ですか?


「しかし使徒候補って……荷が重すぎませんか」

 こっちは地方のどこにでもいる平のサラリーマンだ。人を率いるとかそういう経験は積んでいないし向いているとも思えない。


「安心したまえ。候補者は千人以上いる。殺し合いをする必要もないし使徒にならなくてもペナルティはない」

 そういうと、ガイドさんが俺の腕輪を指さした。


「後ははそのガイドブックをみてほしい。生きていくのに必要な事は大体書いてある。意識を向けて五指を開けばいつでも開ける」

 言われた通りにすると、いきなり右斜め前方にいかにも魔道書といった風の本が浮かんでいた。


「こんなのあるならはじめに出せばよかったのでは?」

 つい文句を言ってしまう。せっかくガイドしてくれているのになんだけど、こういうのがあるのに来る必要あったのか?


 たしかに、とガイドさんは苦笑した。

「こういうやりとりは君の世界で”テンプレ”と言うのだろう? そういう様式美があると日本のムーサ(芸術神)達に聞いたよ。では、良い人生をおくりたまえ。だが、確かに――」


最後の言葉とともにガイドさんの姿は消えてしまった。


「良い人生って言われても、なぁ……」

 流れでやりとりしたが、静かになった途端急に疲れがこみ上げてきて、思わず先ほどまでガイドさんがいた切り株に座り込んでしまった。情報が多すぎるし、驚きすぎて疲れた。


 巨大な木の切り株が点在する、しばらく日当たりの良い草原を眺めていたけれど、ようやく落ち着いた。


 日本での生活は人並みだったと思う。


 それなりに幸せも不幸も経験した。


 特に世界に愛されてもいなく、特に世界に絶望をしていたわけでもなかった。


 ……リア充みたいに友達いっぱいじゃなかったけど、やっぱり寂しいな。


「それでもやっていかないとな……よし、今まで通りだ。やっていこう!」





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