地球がファンタジー世界に売り払われた件

空館ソウ

第1話 エルフかよ!

――身体が、意識が深い水の底から浮かび上がる。

暗闇だった視界に光が生まれ、徐々に鮮明になるにつれて、今自分が久方ぶりにまぶたを開いている事にようやく気づいた。


――混濁した意識が鮮明になるにつれ、その他の感覚も一つずつ確かになってくる。

遠くすんだ青空で円を描くのはトビだろうか。

頬をなでる夏の終わりの穏やかな風にひどく懐かしさを覚える。

耳に聞こえる青草がすれるさざめきは久しく聞いていなかったものだ。


――思わず漏れたため息の後、大きく息を吸い込んだ。

何の香りかわからないが、花のような澄んだ香りが鼻腔を通り、思わず頬を緩めてしまう。

かすかに不快な戦いの臭いがするけれど、多分事は終わった後だろう。薄れて消えてしまった。


…………あれ? ちょっと待て。いつから俺は寝ていたんだ?


「……どうなってんだ?」


 久しぶりに出した声はいつもより響きが良いけど、気のせいだろう。


 そう考えながら俺は起き上がり、風にたなびく亜麻色の髪を長耳にかけた。それでも視界の端で金色の毛先がチラチラとおどっていた。


…………これはさすがにスルーできない。明らかにおかしい。


「俺の髪!?」


 俺生まれてから一度も髪染めてないし、剛毛だからこんな細い髪でもないし! よく見りゃ手も真っ白でつるつるだし指長いしなにより長耳ってなんだよ!


「エルフじゃん!」


 飛び起きて自分の身体を見回す。

 着ているのは太ももがだぼっとした馬上ズボンとローブ。手には複雑な文様が刻まれた杖がある。どれも地球ではお目にかからないファッションセンスだ。


――(長考)――


 これはあれだろう。いわゆる一つの異世界転生ってやつだろう。知ってる。慣れ親しんでる。多分エルフの身体に記憶と魂入ったとかそういうパターンだろ。


『——ご明察、話が早くて助かるな』


 灌木が入り交じる草原に、いつの間にか人がいた。中性的な外見で、白いトーガが褐色の肌にはえてまぶしい。


「いや、そうでもないですよ。頭でわかっていても理解が追いついていないというか。それで、あなたは異世界の神様? でいいんですか?」

 初対面は敬語から。これ大事。

「いいや、少し違うな。私はこの世界の使徒であり、君のような転移者のガイドの役目をになっている。多くを語る時間はないが君に生きるための情報を与えよう」

 そう言いながら、自称ガイドは四畳半くらいある巨大な切り株にすわった。

 なるほど。チュートリアルありのパターンか。




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・器用貧乏な罠師は逃亡中でも趣味に走ることをやめない

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