第4.5話 貴方とご飯と、それから幸せ
「お待たせ致しました〜」
そんな店員の声が聞こえてきて、私は、慌てて先輩の身体を離した。うっかり忘れていたが、ここはファミレスである。こんな場所で抱きしめ合ったまま微動だにしなかったなんて、思いっきり場の空気に飲まれていたな…と思いながら先輩のほうをちらりと見れば、真っ赤な顔をして固まっていた。どうやら先輩も恥ずかしかったらしい。自分から抱きついてきたというのに。
そんなふうにして固まったままの先輩に構うことなく、店員はテーブルに料理を並べていく。チーズが入ったハンバーグにドリア、オムライス、ピザ、山盛りのフライドポテト……っていやいやいや待て。多くないか?
店員が「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げるのに合わせてこちらも会釈し、店員がテーブルを離れるのを見届けてから、私は先輩に声をかけた。
「あ、あの、先輩?料理届いたみたいですけど…?」
そう声をかければ、先輩はぱちくりと瞬きをする。そして、テーブルに並べられた料理の数々に視線を移すと、
「わぁ〜どれも美味しそう!いただきます!!」
ぱちん!と両手を合わせて、もぐもぐと料理を頬張り始めた。することもなくなった私は、先輩がもぐもぐと料理を腹の中に収めていく様をぼんやりと眺めている。ほやほやと幸せな表情を浮かべてご飯を食べる先輩は、なんだかとても可愛らしく見えて、さっきの告白とムードに毒されてしまったような心地になる。
しかし。
「…先輩、よくそんなにご飯食べられますね……?」
「そうかなぁ。お金ないし抑え気味にはしてるんだけど」
「それで抑え気味なんですか!?」
先輩が食べている料理の量の多さに、見ているこちらの胃がムカムカしてきてしまってそう尋ねれば、先輩からは、さらに驚愕するような答えが返ってきた。この小さな体のどこに、これだけのものが吸収されているというのだろう…と戦々恐々としながら先輩が食べるのを見守っていると、ふと、先輩の頬にご飯粒がついているのが目に入った。
「先輩、ご飯粒ついてますよ」
「えっ嘘、どこどこ?」
「右側の頬ですかね」
先輩はごしごしと頬を擦るが、一向にご飯粒が取れる気配はない。これは放っておくと一生取れないような気がする、そう思った私は、ご飯粒を取ってあげようと手を伸ばした。
「ここですよ」
ご飯粒を掬いとって、そのまま口に運ぶ。恐らくオムライスのケチャップライスだったのだろう。仄かにトマトの風味が感じられて美味しい、と思いつつ先輩の顔を見れば、先輩はまた、身体を硬直させていた。そしてやはり、心做しか顔が赤い。
「……どうしたんですか?早く食べないと、冷めちゃいますよ?」
「……君さぁ、なんでそういうかっこいいことをさらっとやってのけちゃうの……」
「は?なにを言ってるんです?」
突然訳の分からないことを言い出した先輩に首を傾げてそう言うと、先輩は、分からないなら別にいいよ、と言いつつもどこか不満げな顔をして、食事を再開した。その合間に、いつかは君をドキドキさせてやるんだからね…!という物騒な言葉が聞こえる。勘弁して欲しい。私はなんやかんやで、この綺麗で愛らしい容姿の先輩に、ドキドキさせられっぱなしだ。それなのに、これ以上ドキドキさせられてしまったら、本当に私の身が持たない。先輩はもう少し、自分の容姿が人の目を惹くということを理解した方がいいと思う。
「ご馳走様でした!」
そんなことを考えていた私の意識は、先輩のそんな声に引き戻された。料理は全て綺麗に食べ尽くされていて、目の前には幸せそうな笑顔を浮かべた先輩がいる。満足そうに笑う先輩の姿を見て、なんだか私まで、心が満たされたような心地になった。
こんな気持ちを、人は幸せと呼ぶんだろうな。私は漠然とそんなことを思いながら、そろそろ帰りますか?と先輩に声をかけた。
「あ、待って!まだデザート頼んでるんだ!」
「まだ食べるんですか!?」
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