第2話 オバケのルール

 神さまからのお返事を待っている間、ぼうっと時計を見ていたら、ある規則性に気がついた。

 目の前を横切るオバケのパジャマ。

 それは、ちょうど5が付く時間に現れる。

 5分、15分、25分……。


 わたしが病院に入り込み、屋上を目指して階段を登った時。

 二階の廊下の端に何かが浮かんでいた。

 それは、ものすごいスピードでこちらに向かって来た。だから怖くなって、急いで駆け下りて、一番近くにあった病室に隠れたのだ。

 それからずっと、こうしている訳だけど。


 オバケは規則正しく、病院内をぐるぐる回っているのかもしれない。

 何かを探して。

 だから、『異物』があれば注目する。


 そこに脱出の糸口があるかもしれない。

 でも、何をすればいいのだろう?

 試しにナースコールを押してみたけど、うんともすんとも言わない。壊れているみたいだ。

 一体どうしたらいいの!?

 そう思った瞬間、携帯がメールを受信した。


『ユカリへ。

 ざんねんだけど、わたしはカミサマじゃないんだ。

 だから、お友だちのケガはなおせないよ。

 ごめんね。

 でも、強くて大きなお船にのっているから、オバケとたたかうことはできると思うよ。

 ユカリがこわい思いをしないようにいっぱいやっつけるから、だいじょうぶだよ。


 大きなお船の船長さんより』


 どうやら神さまは、正体を隠すつもりらしい。

 それはそうか。本来なら屋上に置いたお手紙にしか反応しないはずなのだから。ズルはダメか。

 やっぱり、ハルちゃんの怪我を治して貰うには屋上に行くしかない。

 その為にはオバケの気をひく何かをしないと。

 わたしは時計を見る。

 4時18分。よし、急いで使えるものを見つけるんだ!


 引き出し、金庫、他のベッドの下。

 あちこち漁っているうちに、ゾクっとする寒気と、オバケの声が聞こえて来た。

 うそ! もう? 早いよぉ!

 急いで近くのベッドの下に潜り込む。

 さっきまでの場所よりシーツが短い。見えてしまうかもしれない。

 心臓がバクバクする。

 オバケはスーッと通り過ぎ、窓まで到着したら振り返り、またスーッと消えていく。


 ……どこにいるの……


 怖かった。心臓がバクバクいっている。

 でもいくつか使えそうなものを見つけた。神さまにメールしてアイディアを貰おう。


『大きなお船の船長さんへ。


 お返事をありがとうございます。

 海から戦ってくださるとのこと、とても心強いです。

 オバケの行動パターンを発見しました。

 一定の間隔でパトロールをして、異物があれば猛スピードで追いかけてきます。

 わたしの手元にあるものを書きます。

 なんとかオバケの気をひく作戦をさずけてください。


 バインダーが付いた紙。

 ボールペン。

 置き時計。

 小銭が入った貯金箱。

 本。

 お酒の瓶。

 マッチ。

 窓ガラスのカケラ。

 輪ゴム。

 ビデオテープ。

 懐中電灯。


 よろしくお願いします。

 ユカリ』

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