MISSENDING ~見知らぬ世界に届いたメール~
秋雨千尋
第1話 廃病院のウワサ
わたしは今、赤いランドセルの背負いひもをギュッと掴み、ベッドの下に隠れている。
ここは町外れの廃病院。誰もいない場所──。
……どこ、どこなの……
ドアをすり抜け、音も無く病室に入って来た女。お約束通りの白いワンピースではなく水玉パジャマだが、足は無い。
乱れた長い黒髪を宙に浮かせながら、フラフラと徘徊し、やがて出て行った。
冷や汗で背中がぐっしょり濡れている。
こんなはずじゃなかったのに。
早くおうちに帰りたいよ。
ママ、助けて。
閉じた瞼に、友達の姿が浮かんだ。
いつも元気で、ポニーテールの似合うハルちゃん。
よそ見をして足を滑らせたわたしをかばって階段から落ちて、楽しみにしていた運動会に出られなくなってしまった。
『ごめんなさい! わたしのせいで!』
『大丈夫、気にしないで。こんなのすぐ治るから』
そう言っていたけど、忘れ物を取りに戻った時に見てしまった。パパに抱きついて泣いている所を。
『町外れの廃病院のウワサ、知ってる?』
『屋上に願いを書いた手紙を置いてくると、神さまが叶えてくれるんだよね』
『二組のクミちゃん、それで恋が叶ったんだって』
これだと思った。
ハルちゃんが運動会に出られるように、神さまにお願いする。
ママに言ったら絶対に反対されると思ったから、学校帰りにこっそり向かった。すぐ置いて帰るつもりだった。
だって、オバケがいるなんて聞いてないもん!
携帯を開くと、圏外の文字が浮かんでいる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、わたしが悪い子だから?これは罰なの?
涙でボヤけた画面に、いきなりメールが来た。
オバケに見つかる!
慌てて手で覆う。耳を澄ましたけど、何の音もしない。バクバク騒ぐ心臓を押さえて、そっと開いた。
『泣き虫のマーシャ、お転婆のメルム、やんちゃなライエル、しっかり者のガザンへ。
みんな良い子にしていますか?
お父さんは明日からお
またしばらく会えなくなりますが、エルレーネの言うことをしっかり聞いて、みんなで力を合わせて元気に過ごしてください。
お父さんも早く帰れるようにお仕事を頑張りますので、みんなも一緒に頑張りましょう。
いたずらばっかりのメルムとライエルは特に頑張ってくださいね。
遊びと同じくらい勉強やお手伝いを頑張ってくれるとお父さんは嬉しいです。
甘えん坊のマーシャは、お父さんがいなくても、泣くのを我慢するんですよ。
この間のお祭りで買ってあげたクマさんのぬいぐるみは、お父さんにそっくりなので、泣きたくなったらそれを抱きしめて我慢してくださいね。
勉強もお手伝いもしっかり出来るガザンは、一番上のお兄ちゃんとして、エルレーネを支えてあげてください。
お父さんのいない間はガザンがお父さんの代わりだと思って下さい。
最後にエルレーネへ。
いつも子供達の面倒を見てくれてありがとう。
君がいてくれるから、明日からの試験航海に心置きなく出ることができます。
何かあれば、魔法の手紙を使って私のところに連絡して下さい。
それではまた。
みんなのお父さんより愛を込めて』
だ、だれえええ!?
パパは漁師じゃないし、ママはエルレーネじゃなくてエリだし、わたし一人っ子だし。
間違いメール? でも何で圏外なのに届いたの? しばらく首を傾げた後に、ひらめいた。
この人がウワサの神さまなんだ!
子だくさんなんだ!
わたしはドキドキしながら音をサイレントにして、ゆっくり文字を打って行く。
「親愛なる神さま。
どうか友達の
リレーのアンカーなんです。
あとオバケが怖いので何とかしてください。
よろしくお願いします。
桜花小学校2年3組15番。生物係。結城ゆかり」
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