11.還るために(1)-朝日の過去と二人の現在-
【昨日午後・T県にて】
――夜斗、後でそっちに行くから……力を分けてほしいの。
――そう。どうしても間に合わせないといけないの。
――わかった。ありがとう、夜斗。
「……ユウに代わってくれる?」
「あ、ユウ? 明日の夕方……ヘリを迎えに寄こすわ。それまでに……お願い」
「そう……多分、そこが限界だと思う。ごめんね。無茶……させるかもしれない、けど」
「うん。――祈ってる」
◆
【午前6時・ソータとユウ】
「フェリーは止まらない島だ。途中で降りるしかない。でも……さすがにあんな距離まで飛べないだろ」
「うーん、無理すれば……」
「しなくていい」
「うーん……でも……」
「そうだ。フェリーなら絶対、救命ボートを積んでいるはずだ。それを貰おう」
「……じゃ、探そうか」
◆
【昨日朝・T県にて】
「今日……ソータさん、こっちに来ますよ」
「……そうかね」
「はい、お茶です」
「あ、ありがとう、朝日さん。……しかし……あれだね。鞘……だったかな? それを探しに……来るんじゃなかったかな?」
「ええ」
「為すべきことをきっちりと終えてから。……そう伝えてもらえないか」
「え……でも……」
「――待てるよ」
「え?」
「颯太が帰ってくるまで……わたしは待てるから。必ず――そう伝えてほしい」
◆
【午前6時半・ソータとユウ】
「ボートはあったが……完全に人力だな」
「ソータさん、漕げる?」
「うーん……ジャスラの船ともちょっと違うけど……まあ、どうにかなるだろ」
「夕方までに手に入れられるかな」
「ま、それは頑張り次第で。夕方……そうだな。今日一日で終わらせたいよな」
「……うん……」
◆
【四か月前・エルトラにて】
「夜斗、これ……」
「フェルポッド? しかも……結構あるな」
「ミリヤ女王にお願いしたら、これをくれたの。ディゲから回収したうち、解析が終わって空になった分」
「ふうん……」
「この二つに、
「……ああ、人目を避けるためか」
「そう」
「残りはどうするんだ?」
「私がやるの。……中平さんに、使うために」
◆
【午後1時・ソータとユウ】
「ひぃ、ひぃ……」
「ソータさん、やっと着いたね……」
「もうこんな時間か。ふう……」
「急がないと、ギリギリだ……」
「ギリギリ?」
「あ、ううん」
「それでだな。多分、あの辺……」
「あの、白い建物?」
「……の近くの森の中、かな。とりあえず、あれを目指して登ろう」
◆
【五か月前・エルトラにて】
「お願いします、ミリヤ女王。どうしてもガラスの棺が必要なんです!」
「――ならん。あれはいま、解析中だ。ミュービュリに持ち込むなど、とんでもないぞ」
「でも、中平さんはソータさんと話をしなければならないんです。時間が……」
「そんな個人的な理由で動くつもりか、アサヒ」
「――ソータに協力する件は、お前の判断に任せる。女王は、そう仰いました!」
「……」
「中平さんがいなければ、ソータさんは旅を続けられなかった。中平さんがいなければ、トーマくんがウルスラに行くこともなかった。そうして私達は出会って――ソータさんがいなければ、テスラの闇は抑えられなかったはずです!」
「……ミュービュリには高度な医療というものがあるのだろう? それを勉強したのではなかったか」
「もう、ミュービュリの医療では……痛みを取ることしかできません。そしてその治療は、中平さんの意識を奪います。話をしたいという中平さんの希望を叶えられません!」
「……」
「ミリヤ女王、お願いします。――ガラスの棺の許可を……」
「ならん」
「女王!」
「アサヒ……お前は思い違いをしている。エルトラがソータの手助けをするのは、あくまでテスラ――もとい、パラリュスでの話だ。ミュービュリに関与する訳にはいかん」
「でも……」
「どうしても助けたいなら、お前自身でやれ」
「それは……」
「――代わりに、フェルポッドを与える。それでどうにかしろ。お前の判断でな」
「フェル……ポッド……」
――――――――
「……アサヒさま」
「エリン!」
「痛みを取る術は治癒の初歩です。アサヒさまなら、きっとできますよ」
「……あ……」
「私がお教えします」
「……そっか……ミリヤ女王……そういう……」
「ほらほら……泣かないでください。頑張りましょう?」
「……うん」
◆
【午後3時・ソータとユウ】
「ソータさん、まだ?」
「もう少し……上の方だな」
「俺が担いで移動しよう。その方が早いよ」
「駄目だ。鞘の気配を追わないと……」
「でも……」
「焦るな、もう少しだから。……ただでさえ体力を失ってるんだ。無理するんじゃない」
「……うん……」
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