5.繋ぐために(3)-暁side-

 ウルスラのお茶ってうまいよな、と思いながらお菓子を食べていると、シャロットとユズルさんが部屋に入って来た。


「あ、お帰り」

「ただいま……って、え、あの、一緒にいた女の人は?」


 シャロットがキョロキョロと部屋を見回す。


「朝日のこと? 一度ミュービュリに戻った。おじいさんに説明してくるって。もうちょっとしたら戻ってくるんじゃないかな」

「えっ!」

「はっ?」


 二人が同時に大声を上げる。


「そんな簡単に行き来できるものなの?」

「朝日は特別。……あ、そうだ」


 そういや、自己紹介もしていなかった。

 テスラのことは話せないけど、それぐらいはしないと駄目だよな。


「オレは、暁。一緒にいたのは、朝日って言って、オレの母親」

「お母さん……若いんだね」

「童顔だから。……あ、でも、実際に若いか」


 シャロットがオレの隣に座る。ユズルさんはオレ達の向かいに座った。


「今日、凄かったね。二人とも、すごく珍しい力を持ってるよね」

「え……」


 シャロットが興味津々といった感じでオレの顔を覗きこむ。

 ……というか、オレ、自分の力のこと説明したっけ?


「アキラ、浄化ができるでしょ? 私もなんだ」

「そうなのか? ……っていうか、何で知ってんの?」

「私……視るのが得意なの。遠視とか、夢鏡ミラーとか。フェルティガエの能力も視れるんだ」


 シャロットが楽しそうに笑った。

 こうして見ると、普通の明るい女の子だ。さっきは厳しい顔してビシバシ大人たちを仕切ってたのに。

 それに、何だか話しやすい。ミュービュリの子たちとは全然違う。


「……お前、いくつ?」

「10歳だよ」

「オレと同じじゃん。そんなにいろんなフェルを使って大丈夫なのか?」

「え?」


 シャロットがきょとんとした顔をした。


「今日は非常事態で特別だったけど……オレ、普段は使うの禁止されてる。今のうちに、ちゃんと基本の修業をしないと駄目なんだってさ」

「修業……?」


 どうもピンとこないらしく、シャロットは不思議そうに首を傾げた。


「……シャロット、アキラくんに教えてもらったら?」


 それまでずっと黙っていたユズルさんが、優しく言った。


「シャロットはずっと自分で何でもしていたから、何かを教わるって経験ないんじゃない?」

「……うん、そうだね」


 頷くと、シャロットがオレを見てにっこり笑った。


「アキラ、修業っていうの、教えて?」

「……え……」

「修業したら、私の力、もっと強くなる?」

「なるんじゃないの? 普段、フェルの無駄遣いをしなければ。特に浄化は……ソータさんが必要だって言ってた」

「そうなんだ。……ほら、早く! 教えて教えて!」


 シャロットは椅子から飛び下りると、オレの腕をぐいぐい引っ張った。

 ちょっと面倒くさいなと思ったけど、不思議と嫌じゃなかった。


   * * *


 しばらくすると、ユズルさんはトーマさんに呼ばれて部屋を出て行った。

 多分、失くした記憶の話とかするんだろうな、と思う。

 オレとシャロットは部屋に残り、ずっと一緒に修業をしていた。

 やがて朝日が帰って来て――ゲートを初めて見たシャロットが、とても驚いていた。


 夜も更けたし、今日は全員が集まって話をするのは無理だから明日にしましょう、ということになって、オレ達は寝る部屋に案内された。

 オレと朝日、トーマさんとユズルさんがそれぞれ同じ部屋だ。


 シャロットはこのエリアではなく東の塔に居室があるらしいんだけど、しばらくはオレ達の近くの部屋に居ることにしたらしい。

 だけど、その部屋には戻らず、なぜかオレ達の部屋に一緒に来た。

 聞くと、修業やミュービュリにすごく興味があるらしい。

 最近はやめていたけど、一年ぐらい前まではしょっちゅうミュービュリを覗いていたそうだ。


「覗くのもフェル使うんだから、もうやらない方がいいぞ」

と言ったら

「じゃあアキラがいっぱい教えてね」

と言って根掘り葉掘り聞かれた。


 ちなみにシャロットは、トーマさんやユズルさんを見て日本語を覚えたらしい。

 試しに話してもらったら、男の子みたいな――まるでオレみたいな喋り方だった。


『変かな? でも……オレ、もう覚えちゃったから直せないや』

『んー、別に……』

『でも、可愛いのにもったいない!』


 朝日が急に入って来て大声で言った。


『かわ……?』


 シャロットが意外そうな顔をしている。


『カワイイって、コレットみたいなのを言うんじゃないのか?』

『コレットもシャロットも違うタイプで可愛いよ。それに……シャロットはこれからもっともっと奇麗になるわよ、絶対!』

『どこから来るんだよ、その自信……』


 思わず呟くと、軽く背中をどつかれた。


『いってーなー』

『余計なこと言わないの!』

『へいへい』


 オレ達のやり取りを見ていたシャロットは、何だか楽しそうに笑っていた。


『でも、トーマくんとユズルくんを視てたって……どうして?』


 朝日が不思議そうに聞く。

 シャロットは話していいのかどうか迷っていたみたいだけど、トーマさんの記憶がないこととか、ユズルさんから聞く予定だったこととかを説明すると、去年の夏にウルスラで起こったことを話してくれた。

 それは、トーマさんにとっても、ユズルさんにとっても、女王さまにとっても、そしてシャロットやコレットにとっても切ない、辛い事件で、朝日はちょっと涙ぐんでいた。



 ――結局シャロットは、寝るギリギリまでオレたちの部屋にいた。

 そういや、シャロット自身のことはあんまり聞かなかったけど……シャロットって、ずーっと淋しい思いをしていたのかもしれないな、と思った。

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