第1部 還る、トコロ

第1章 神剣の行方

プロローグ

 西の塔の一室――先代女王、イファルナが静かに横たわっていた。


「イファルナ様……!」


 シルヴァーナ女王はイファルナの皺だらけの手をぎゅっと握りしめたが、反応はなかった。

 皇女こうじょコレットは、イファルナの顔の傍に擦り寄っていた。

 イファルナが一番可愛がっていた姫であったから、コレットは自分が一番イファルナの傍にいなくては、と強く感じていた。


 一方、コレットの姉、シャロットは少し離れたところで――控えている神官長のすぐ前にいた。

 女王の資格を持たない彼女は、主に女王の一族と神官たちをつなぐ実務的な役割を担っていた。


 イファルナの唇が微かに動いた。


「……剣……まも……」


 恐らくコレットにしか聞こえなかったであろう――その言葉が、イファルナの最期の言葉となった。

 イファルナの皺だらけの手がガクリと落ちた。それを見た神官が「失礼いたします」と言ってイファルナの手をとった。

 そしてしばらく見守ると――黙って首を横に振った。


「先代女王……イファルナ様――ご逝去です」

「……!」


 シルヴァーナ女王は息を呑むと、そっとイファルナの手を離した。静かにイファルナの胸の上に置く。

 そしてベッドから一歩下がると両手を組んで跪き、深く頭を垂れた。最大限の敬礼だった。

 シャロットはイファルナの亡骸をまっすぐに見据え、シルヴァーナと同じように深く頭を下げると――すぐに、後ろの神官長の方に向き直った。


「――各地のフェルティガエに通達して。ウルスラの扉を閉鎖。民は家から出ないこと。後は……以前からの指示通りに」

「御意」


 頷くと、神官長は部屋から素早く出て行った。


 そして、イファルナの枕元にいたはずのコレットは――いつの間にか姿を消していた。

 そのことに、シルヴァーナもシャロットも――気づいてはいなかった。

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