ネム

第17話

「今夜は打ち上げだな。何せ、あの"墓荒らし"の信奉者の教化に成功した、記念すべき日だ」

 ご満悦な様子で大声を上げるメザマシの口を、私は慌てて塞ぐ。大学主催のセミナーを丸々ひとつぶち壊しにした直後、大学構内のメインストリートでそれを触れ散らかそうとは、やはりこの男は気が触れている。

 周囲の怪訝そうな表情に、クレサシが今にも泣きだしそうになりながら、小さな体をさらに縮こめる。

「ねぇ、早く行こうよ。バレたらまずいよ」

「何がまずいんだ? おい、胸を張れよ、クレサシ。俺たちはついに、この国の過ちを正す一手を打てたんだぞ」

「分かったから黙れ。こんなこと、職員なりに知れたら、停学で済むか分からんぞ」

 そうメザマシを諫めるが、奴は「知ったことか」と受け流す。代わりにクレサシがますます顔を歪ませる。いよいよ目に涙が溜まり始めている。

「お前さんら、俺に共感した同志だろう? 少しは己の行いに誇りを持てよ」

「勝手な解釈はやめろ。お前が金を払うというから乗ってやっただけだ」

「あんな端金のためだけにこれだけのリスクを負ったんなら、お前さん、相当な間抜けだぜ」

 蔑むようなにやけ顔で言うメザマシに腹は立ったが、特に反論が思い浮かばず、私は口を閉ざす。まったく、我ながら安く使われたものだ。

 何も言えなくなった私を見て、メザマシはやれやれという風に息を吐き、偉そうに言った。

「まったく、先が思いやられるね。そんなことで、社会に出てやっていけるのか、ヨアカシ?」

 お前にだけは言われたくない、という私の言葉を無視し、メザマシはペラペラと続ける。

「クレサシ、お前さんもだ。俺に言わせれば、二人とも軟弱が過ぎる。もう少し強い意志を持てよ。目の前の金に踊らされているようじゃ、幸せな人生は掴めんぞ」

「ご高説を説いているところ悪いが、お前のような悪魔が『幸せな人生』と口にしたところで、冗談にしか聞こえないぞ。というか、俺たちを躍らせたという自覚があるんだな、お前?」

 メザマシは愉快そうにげらげらと笑った。この下品な笑い声を聞くたび、私はこいつとの縁を切ろうと心に誓ってきたはずだった。しかし、それはこの日まで叶わずにいる。どうやらこいつの言うとおり、私はもう少し強い意志を持つべきらしい。

 酒とツマミを買いこもう。いや、ツマミはいらない。あの講師の馬鹿面だけでいくらでも呑める。ああ、買い出しついでにパフェでも食っていこう。

 そんなメザマシの独り言に、少し落ち着きを取り戻したらしいクレサシが割り込んだ。

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