霧の外へ
霧に包まれた東京駅は、新木にロンドンの風景を彷彿とさせた。行ったことなどないけれど。
元旦の、日がまだ昇らない時間だった。異様なほど誰もいない。そのことに、確信を持った。
1月1日の早朝、東京駅の前に霧が発生する。その霧の中では、運命の人に会えるという噂があった。
新木はそれを確かめに来ていた。
どうか本当であってくれと、心から願っていた。
自分の運命の人に、どうしても会いたかった。彼女が運命の人だと、確信したかった。
その願いは届いて、霧の向こうから、人影が近づいてくる。
そのシルエットは、よく知っていた。目に焼き付いていた。
「やっぱり、君なんだね」
新木は笑いながら泣いていた。そんな新木を見て、女は肩を揺らす。
「困った人。拘らないでと言ったのに」
すっと、手が伸びる。新木の頬に触れ、引き寄せ、唇が触れあう。
「でも、ありがとう」
女の目にも、涙が滲んだ。その一粒が地面に落ちる頃、霧は晴れていた。
「わかってる。弱くてごめん。でも、もう少しだけ。君を忘れずに、歩くために」
朝陽が新木を照らした。
涙を拭うことに必死な新木は気づけない。
自分の影の横に、優しく寄り添う影に。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます