霧の外へ

 霧に包まれた東京駅は、新木にロンドンの風景を彷彿とさせた。行ったことなどないけれど。

 元旦の、日がまだ昇らない時間だった。異様なほど誰もいない。そのことに、確信を持った。

 1月1日の早朝、東京駅の前に霧が発生する。その霧の中では、運命の人に会えるという噂があった。

 新木はそれを確かめに来ていた。

 どうか本当であってくれと、心から願っていた。

 自分の運命の人に、どうしても会いたかった。彼女が運命の人だと、確信したかった。

 その願いは届いて、霧の向こうから、人影が近づいてくる。

 そのシルエットは、よく知っていた。目に焼き付いていた。

「やっぱり、君なんだね」

 新木は笑いながら泣いていた。そんな新木を見て、女は肩を揺らす。

「困った人。拘らないでと言ったのに」

 すっと、手が伸びる。新木の頬に触れ、引き寄せ、唇が触れあう。

「でも、ありがとう」

 女の目にも、涙が滲んだ。その一粒が地面に落ちる頃、霧は晴れていた。

「わかってる。弱くてごめん。でも、もう少しだけ。君を忘れずに、歩くために」

 朝陽が新木を照らした。

 涙を拭うことに必死な新木は気づけない。

 自分の影の横に、優しく寄り添う影に。


          了

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