空はみんなの憧れ

 空が好きだった。


 よく晴れた日の空も、雲の多い空も、雨の日の空も。どの空だって、大知は好きだった。フォルダは空で埋め尽くされていた。

 大学生になって、そんな大知を見た友人たちが、インスタグラムを勧めた。撮ったものを載せてはどうかと。


 友人たちが大知の写真を見たいというから始め、友人以外にも何人か、彼の写真を気に入ってくれる人間が現れ、彼は空が好きな人がたくさんいるのだと思った。

 そしてたくさん写真を撮り、アップして、そしていつしか、誰かが言った。


「代わり映えなくてつまんない」


 何てことのない言葉だった。

 大知には、そうではなかった。


 その言葉は、友人や他の人に気にするなと言われても、大知の心を深く穿った。

 それから一年。大知は空を見上げるのをやめてしまった。


 空を見なくても人生は続くことにむなしさを感じながら、大知は黙々と大学に通った。

 友人たちも、触れはしなかった。


 講義が終わり16時、11月の空はすでに赤みがかってきていた。

 友人たちと、このあと何処に食べに行くかと話し合っていると、一人が指をさした。


「なんだっけ、あの雲」


 友人の声に、大知はつい顔を上げた。

 うろこ雲が、空の半分を覆っていた。

 まだ薄く青い空に、千切れた雲が浮かんでる。


 無意識にスマホを構え、写真を撮った。周りの人も撮っていることに気づいて、苦笑い。

 消去しようとした手はしかし、友人が止める。


「なに?」

「いい写真じゃん」

「はは。ありきたりだよ」

「それでも、大知の心は動いたんだろ?」


 言葉を失う。

 写真を見て、目頭が熱くなる。


「インスタにあげてみ」

「でも」

「いいから」


 言われるがまま、写真をアップした。

 友人たちがすぐに反応してくれる。

 どや顔に思わず笑って、それからスマホを見て、堪えられず泣いてしまう。


 顔も知らないフォロワーからのコメントに、大知はまた、空の写真を撮ろうと思えた。

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