第四章 I burn everything to ashes. -3-


 走り出した東城を見送って、七瀬七海は深くため息をついた。


「わざわざ辛いだけで損な役割を選ぶなどわたくしらしくはない……ですけれど」


 それでも、最後にはあの姿が見られたから。

 彼女が初めて彼に惹かれた瞬間と同じ、あの目をしてくれていたから。だから報酬としては十分すぎるくらいに十分だった。

 その光景を見ていた白川たちが、恐る恐るといった様子で戻ってくる。


「……なんか柊って聞こえたけど。それうちのクラスメートのやろ? その為に東城が走ってったんか?」

「その辺りはお気になさらず。正解でも不正解でもお答えできませんもの」

「でも君は、大輝のことが――……」

「それもまたあなた方が気になさることではありませんわ。――それに、これくらいのハンデからの逆転劇、というのも面白くありませんか?」


 先ほどからの屈託を感じさせないほほえみが、いたずらっぽく変わる。魅惑的なその笑みは、心から彼女がそう思っている証だった。


「さて。長居は無用ですわね。――出来れば、いま見たことや聞いたことはすっぱり忘れてくださると助かります。下手に首を突っ込まれてもわたくしでは守れませんから」

「……そうだね。気になることはたくさんあるけど、何か物騒だったし」

「俺らは何も知らんと、とりあえずあいつが帰ってきたときにただただ楽しく迎えてやったらいいんやろ? ――まぁ東城が無事に帰ってくるんか、少し心配はしとるけどな」

「その点については大丈夫でしょう」


 そんな全幅の信頼を寄せて、七瀬は言う。

 本当に欠片の心配もしていない。――あの東城が自分の足で立ち上がったのだから、それはもう絶対だ。


「――ただ、それとは違う嫌な予感がありますが」


 そう小さく呟いて、彼女は自身の胸に手を当てる。

 その予感が当たらなければと、そう願いを捧げるくらいしか出来なかった。

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