青春はほんの一ページ

クースケ

第1話

ある日記の前で手が止まり

そのまま手に取った その瞬間

今はあまり使う事のない

懐かしいという感情と同時に

戻りたいという思いが

私の空っぽな心を急激に満たしていくのを感じた。


その表紙には、動物三匹のかわいいキャラクター。カバ、ゾウ、ブタ、

その頃はかわいいものに抵抗があった。ピンクの服、かわいいデザイン、女の子らしいね。とかそういうセリフも嫌だった。

私が中学生からつけ始めた日記

大人ぶりたかったのか

この日記にはすべての思い出が詰められている

あの日の淡い思い出


両親が離婚する?

なぜ?私はずっと疑問視していた。

喧嘩するほど仲がいいということわざがあるが

ほとんど会話を聞いたことがなかった。

今思えば家族の溝が修復不可能なほどまでに

広がっていたのかもしれない。


あの頃は泣き崩れるほど 大、大、大、ショックだった。

私はどうすればいいの?

しかも、来年受験をひかえていて

こんな時期に何考えているの?

あの頃も雨模様の雲だった。

雨を予兆したようにカラスの「カーカー」と声が

私には悲鳴に聞こえて辛そうに思えてしょうがない。

その声が町中に轟いていた。

ボソッ「今日は多いな」

これで三回目か。三回目の正直で済めばいいが、一人ぶつぶつ言っていた。

はぁ~、まぁこの天気が終わるまではやみそうもないか。

勉強に集中できなかった私は散歩に出かけるため、外にでた。外は明らかに曇天の表情で暗く沈んでいた。

カラスの鳴き声を背に近くの公園についた。


ポツボツ…「雨?」ポツポツ… 「冷たっ!! あ~ やっぱり傘持ってくればよかったな~。でも少しぐらい濡れてもいっか」あっ、あそこにいるのは同じクラスの信二君、ヤバい見られちゃう。 うちの学校校風が厳しいので有名なのに、その中で長髪で制服のシャツがいつも出ているのは彼だけだった。いくら強面の先生に叱られようが職員室に呼ばれようが動じない彼は、クラスの中では不良のような目立つ存在だ。あっ、むこうも気が付いたようだ。でもほとんど目にかかった前髪でわからないけど。 

 「吉田?」前髪を、かきあげて話す。

「おまえん家、近いんだ?」

「うん」どうしよう。私、人と話すの苦手だし特に男子とほとんど話ししたことない。

そうだ。さりげなく逃げよう。

「おい、待てよ。俺んち近いから来いよ。傘貸してやるから。」と、なかば強引に連れてこられた。えっ、ここ?公園から1分もかからない。私の家からも5分位。っていうか。美容院 「空」前からある平日でも列ができるほどの人気店だ。


高そうだから行ったことはないけど。

その横の二階の階段を二人で上がる。

「はい、傘」

「あっ、ありがとう」

「今から、1時間ほど暇か?」

「暇じゃないです。」

「おい即答かよ。あと同級生に敬語はやめてくれよ」

「ちょっと、カットモデル探してるんだ。協力してくれないか?」

カットモデル?私の髪、これ以上どこを切るというの?

校則にかからないように、前髪は眉毛の2㎝上。後ろ髪は、襟につかないようにバッサリと超短いおかっぱ頭。

その間を、さっしたのか。

「もっと、おしゃれにしてやるよ」「えっ、いいの? ありがとう」

いや。まだ、返事してないんだけど。また、押し切られてお店の椅子に座っている。そして、いつもかきあげていた前髪を後ろに髪留めで留める。不思議、なんだか何やっても様になる。初めて、しかもこんな近くで信二君の顔を見る。

なんだか、慣れた手つきで水の霧吹きで髪を濡らしていく。

鏡に映った信二君はとても、真剣で楽しそうでにやにやしてる。「お前さ、俺の顔に見とれてる?ってか、あとここが俺んちって知らなかっただろう。」器用にハサミを、動かしながらパラパラと髪の毛が小気味よく落ちていく。

なんだか不思議。すごい。しかも喋りながら。プロじゃん。

「こんな近くにいて。それはないよ」「俺は、ずっと知ってたぜ。さっきはとぼけたけど。」

なんかすごくいい気分。さっきまで最悪だったのに。

「聴いてる?」

「あっ、ごめん。プロの美容師みたいだなって」

「まあ、ガキの頃から店手伝っているから。あと、一応カットモデルでもお金いるんだ」

あっ、そういうことか。「今、お金もっていないから後にしてくれる?」言葉を言い終わるか終わらないぐらいで

「でも、お前からは俺は取らない。その代わり、俺の髪を切ってほしいんだ。」

「えっ、聞き間違い?」

「いや、聞き間違いじゃないよ。」


「もちろんカットハサミを持ったこともないのは知ってる、切るだけだ。修正は自分か。親に、してもらう。」

「でも、髪は切りたくないんでょ?」

「やったな!!今日初めてお前のうん以外の言葉聴けたぜ」

と、言われて意識すると顔が少しほてってくる。

「ガンかけって、知ってる?」

「確か、願いが叶うまでは好きなものを食べないとか」

鏡越しに、首をさかんに縦に動かしてる。

「今日、願いがかなったから髪切る。」

願いごと。そうだったんだ、先生達に歯向かってまで。

「ごめん、ちょっと椅子を回すね。ちょっと後ろ髪確認して、

後ろ髪どう?」お喋りしながらいつのまにか完成してた。私の髪。自分でいうのも、なんだけど。こけし頭から、すごい。すご過ぎる。パーマかけてるわけでもないのに、毛先がながれてる。

「ありがとう」結局こんなありきたりな単語しか、出ないなんて情けない

「いいよ。顔をみれば、満足してることわかるから十分だよ」接客に、慣れているからか気のきいた言葉が同じ年とは思えない。

「さあ、少し休憩してからお前の番だ」


あの頃のことが、日記に何ページにもわたって書いてある。

あれから、4年も経った。


両親は、今も会話は少ないけどこういうのを仲良くというのか、やってる。

私が4年前引き出しから見つけた離婚届けは、ガンを患った父が面倒をかけたくないから母に渡したものだったらしい。

母は失くしたといっては父に、何枚も取ってこさせた。そのうち父も離婚をあきらめた。ガンも、いろいろ検査は進めていくうちに良性だということが判明。

人騒がせだ。まったくと、日記に書いてある。

ページをめくると私の信二君に切ってもらった写真と、私が信二君の髪を切った写真が貼ってある。

今でもふと思い出す、走って逃げたうぶな私

こけし2号と走り書き。それとうれし涙

全てが 私の中のほんの些細な

青春の一ページ  


本を閉じる音「パタン」

「ママーご飯できたよー」

「待って今行く~」

続きは、また逢う日まで

                    END









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