5.後日談

呪いを解く方法


一つ、呪いを発現させる


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あれから一週間。

朝五時、眠らない僕。もとい眠れない僕はいつものようにコンビニに足を運ぶ。

今日も東南アジア系の店員が機械のように「シャッセー」と言い、品出しに精を出していた。

一面の隅、小さな枠内に僕の通う私立神岡高校での転落事故について書かれている。


「女子生徒が転落事故。フェンスの老朽化・・・全治半年・・・ね。」


第一面を大きく飾る記事には住宅街での二体の変死体の発見のニュース。

モザイクはかかっているが明らかに才川邸。

この二つが全く関連付けられていないのは、まだ才川の意識が戻らないからだろうか。


「シャッセー」

「おや」


どこで売っているのかビーズで、でかでかと星の模様が描かれたニット帽に

赤いエスニック風のワンピース。


「奇遇だね」

「そうですね」


僕は朝刊を置き、コンビニから退散しようとする。

学校外でのコミュニケーションは苦手だ。

特にこの自称師匠とのコミュニケーションは。


「あの子、生きててよかったね」

「・・・そうですね」

「あれ、君が嗾けたんじゃないのかい?」

「そうですかね」


あれ、呪いのことだろう。

嗾けた、イジメられた人間の怨念の事だろう。


「殺したかったのかい?」

「いえ、別に。ただ・・・」


僕の口角が上がる。

愛想笑いのつもりだ。


「僕の役にはたたなそうだったので」


琴々は何も言わない。

ただ少し、はにかんだような気がした。


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コンビニの入店音がなる。

もちろん僕が外に出たからだ。

朝の澄んだ空気が気持ちいい。


「ああ、晴れたな」


僕は帰路に着いた。


『結局、サイカワは親を殺してたの?』

「ん、そうだね。彼女は殺してたよ」


僕の後ろからかけられる声。

これは僕の妄想の産物。


『なんで?』

「そこまではわからない。喧嘩でもしてカッとなったんじゃないかな。

彼女は母親を殺した。

そして単身赴任から一時的に帰宅した父親にそれが見つかり、否見つかる

前にかな。時系列はわからないけど、殺した」


僕の弱さが作り出した幻想。


『だから呪われたの?』

「親の殺されたという怨念は勿論。でも彼女にはそれ以上にこれまでハメてきた

数多くのライバル達の怨念が大きすぎた。

彼女の親の念は後悔の念の方が強くて、むしろそんな境遇にしてしまった彼女に

生きて欲しいと願った一筋の念が・・・」


そこまで口にして、止めた。

そんな歪んだ愛情を認めたくなかったから。


「彼女の聞いたドンドン音は大方近所の人が彼女の悲鳴を聞きつけて来てくれたんじゃないかな」

『じゃあ、なんで扉は開けなかったの?』

「開けなかったんじゃない、彼女は開かなかったんだ。自分の意思で」


道行く人が一人言を言う僕を奇異の目で見る。

仕方あるまい。僕だってこんなヤツが歩いてたら凝視してしまうだろう。


「そして、自身の中でも最早何が現実かがわからなくなったドン詰まりで僕に出会った」

『じゃあ』

「そして彼女は最後、文字通り足を引っ張られたのさ。足を引っ張ってきた奴らに。」


嗾けた、とは才川にその呪いを自覚させた事が大きい。

呪いとは当人が罪の念を自覚した瞬間に発現する。

だからトリガーを引いたのは間違いなく僕だ。


『嫌いだったの?』

「そんなことはない。ただ、彼女の問題はもう解決していたから。

自覚するかどうか。ただそれだけの事件だった。僕達の役に立ちそうもなかったし

早期解決をしてあげただけだよ」


自宅のアパートの共同便所で鏡を見る。

僕の後ろに映る10歳くらいの女の子。

長いブロンドの髪、整った顔立ち、現実離れした西洋人形のような

美しさが彼女にはあった。


「瞳、いつになったら君は兄離れできるんだろうね」

『ふふ、ふふふ。おにいちゃんが死ぬまで』

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