2.怪談 語り:才川千里

呪いを解く方法


一つ、呪った人間が死ぬ


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才川千里 16才。

容姿端麗、学業優秀。客観的にみて非の打ち所の無い女子生徒。

成績は常に一位の座を死守する。

県内の模試で彼女の名前を見なかったことは無い。


「先月・・・いえ、先週から家の様子がおかしいの」

「おかしいって、どう?」

「ポルターガイストって言うのかしら、物が勝手に落ちたり

足を引っ張られたり」


彼女は夏だというのに顔を青くし震えている。


「その異変の原因に心当たりがあるの?」

「・・・ええ。貴方の言う呪いってのが本当なら」


才川は自らを落ち着かせるよう深呼吸をする。

その体から放たれる異臭と黒い靄。

明らかに呪われている人間。


「私の家、少し教育が厳しくってね。本当だったらこうやって

放課後無為に時間を使っているのだって怒られてしまうの」


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いつも通りの帰り道。

夜九時を回った頃、私は塾の授業が終わって電車に乗った。


ところで田螺君、私の前回の模試、五百点満点中何点だったかわかる?

あはは、五百点な筈ないじゃない。

全教科満点、そんな奇跡何度も起こるものじゃないわ。

ごめんなさい、問題はそこじゃないわね。

私はどんなテストでも一位になるように、そう教育され続けてきたわ。

何度かその期待に答えられないこともあった。

けど、成績に大半は一位だったわ。勿論、全国で。


そのためにした努力は勉強だけじゃないってのが今回の話の根幹なの。

私は自分が一位をとるためなら何でもした。

比喩じゃなく、なんでもね。


教師の出す問題の予測?

全国模試の試験問題をハッキングして入手?

そんな夢みたいなことはしている筈無いでしょう。

私がしたのはもっとミクロな部分。

ライバルの蹴落とし。


私の通っていた予備校は全国から集められたトップレベルの人間が集う教室。

その中には必然的に一位を狙う物は多く在籍しているわ。

ええ、わかってるわ。そんなこと。目的は大学受験合格であって一位を取ること

ではないって言いたいのね。

それは弱者の論理ね。

一位を取れる実力があるなら、どんな大学にだっていけるし、どんな夢だって

かなえられるわ。


・・・ごめんなさい。また話がそれたわね。

ライバルの蹴落とし、そんなところに労力を裂くのは馬鹿らしいと思うかもしれない

けど、私は本気でそれを実行していたわ。


出題範囲の情報操作なんて当たり前、でも一位を取る気概でいるなら、そんなもの

あまり効果を得られない。

もっとセコイ真似よ。そう、イジめ。

あとは、そうね。嫌がらせ。


ああ、引いているわね。

私もこんな目にあわなければバレない限り墓まで持っていこうと思っていたもの。


ただ、これは私“だけ”がやっていたことじゃないわ。

足の引っ張りあいなんて日常茶飯事。もちろん勉強は人一倍してるわ。

ただ、その教室では間違いなく一位を取ることに対する執念のようなものが

渦巻いていたの。


次の全国模試、私は行過ぎた行動をしてしまった。

いつも二位近辺、ギリギリまで私に迫ってきていた生徒を帰り道に襲わせた。

気づいているでしょうね。私が糸を引いていたって。

その日から私の生活に異変が起きた。


学校に登校し、昼休み。

弁当箱の中身が全て腐り果てていた。


はじめはイタズラやイジメを疑ったわ。

イジメていた側がイジメられるなんてよくあることだし。

でも、誰もがいつもどおりの態度。

私は結局その異変に気づかないフリをして弁当箱を捨てた。


次の日も、その次の日も弁当は腐っていた。


朝、仲のいい連中と学校に行って、帰りも最大限気をつけた。

でも、何度繰り返してもこの異変は収まらない。

それどころか昨日は・・・。


「ただいま・・・」


部屋に帰ると真っ暗なリビングから気持ちの悪い音。


「何か・・・いるの」


扉が閉まった音と同時にゴト、と何かが落ちた。

私が恐る恐る音の方に目を移すと。


目が合ったの。


それは「瞳」。


「瞳」としか言いようのないモノがこちらを見つめているの。


叫んだ、怖くて必死に。


扉は何度開けようとしても開かない。

二階にある自分の部屋に駆け込んで布団に包まった。


するとドンドンといたるところから音がして、まるで私を

殺そうとする霊がすぐそばまで来ているんじゃないかと思って

必死に神様に願ったわ。


その音はやがて止んで・・・静まったところ部屋の窓おすとやっと外に出られたの。

単身赴任だった父に電話をかけてその日はホテルに泊まることにして・・・


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「今に至る・・・と」


目の前の才川は酷く怯えている。

歯をガチガチと鳴らし、瞳には涙が浮かんでいた。


「・・・これ」


僕は鞄から一枚の鏡を取り出す。


「僕、霊脳探偵って肩書きで商売をしてるんだ。君は知らないだろうけど」

「・・・ええ。そんな胡散臭い職種は聞いたことも無いわね・・・これは?」

「鏡。霊って苦手らしいから」

「らしいって・・・専門家じゃないの、あなた」

「悪霊の撃退は霊媒師とかお寺とか神社の専門なんじゃないかな。

僕は呪いなんかの経路を辿って、解決してあげるだけ。

霊だって、呪いだって正しい手順を踏まないと解決も出来ないし

解消もできない・・・と思うよ」


才川は鏡をいぶかしげな表情を浮かべながら受け取る。

そんなに胡散臭いだろうか。


「具体的にはどうすればいいの」

「・・・身の危険を感じたところでその鏡をのぞいてくれ。

良くない者が映るかもしれない。でもそれでいいんだ。そうしたら僕に連絡をしてくれ」

「ねえ、助かるのよね。これで。呪い、何とかしてくれるのよね」

「助かるかはわからない、でも呪いの方は確かに請け負おう」


僕は才川に電話番号を伝えた。


「・・・初めてのクラスメイトのラインだ」

「君本当に友達がいないんだね・・・」


才川が部室を後にする。

教室での自信満々の雰囲気とはかけ離れた沈んだ表情のまま。

ああ、まだ雨が降っている。

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