ひとりぼっちの霊能探偵、今日もふたりぼっち

吉備津 歪

才川千里

1.依頼者 才川千里

「あー・・・」


雨だ。


「しんじゃうのかな、あたしたち」


妹がぽつりとつぶやいた声は水溜りをザァアと弾けさせる車の

通過音と共にノイズがかる。


「おにいちゃん?」


暗い部屋の中、微かな温もりを感じる。

紛れも無く人の温もりなのだと何度も確かめるように抱きしめ

幼い少年は涙を流した。


「ごめん、ごめんよぉ」


ざぁざぁと雨の降る音がうるさい。


「お祭りかな。にぎやかだね」


############################


田螺たにし君!田螺るい!」


窓の外を眺めていた少年を語気荒く指定する教諭。

何をそんなに興奮しているのだろうかと周りを見渡す。

ああ、そうか。またぼうっとしていた所を狙われたのか。


「わかりません」


教室は笑いの渦に包まれる。

その笑いは紛れも無く嘲笑の部類であることは言うまでもなかった。

田螺涙。僕の名前。

平凡な人間。

あえて特徴をあげるとすれば。

田西ではなく川などに見られる貝類と同じ少し変わった苗字。

ボサボサの頭に目の下のクマがもっぱら僕のトレードマークといえよう。


「はぁ、才川君。変わりに答えなさい」

「はい」


自信満々な声。

才川千里(さいかわ ちさと)。

僕とは正反対の女。

高慢な性格で・・・彼女を心の中で蔑むのは、なにやら自身の肯定を無理やりしている

ようで気持ち悪かったので途中で思考を放棄しよう。

昨日からなにやら


キンコンと鐘が鳴り授業の終了を告げる。


「さて、と」


机の脇にかけた鞄を背負う。

今日は雨だったなと折り畳み傘を出すためまた鞄を背からおろし

こう言う先を考えればわかる非効率的な所作こそが自身の愚鈍さに繋がるの

だろうかなどと心でぼやいた。


「おい、田螺。マックいこうぜ、マック。クマすっげ!ギャハハハ」


僕のクマの何がおかしいのだろうか。

確かに真っ黒といっても差し障りないほどに黒くはある。

パンダと影で呼ばれているのもしっている。

だが人の外見的特長で笑うのは如何なものだろうか。


「いや、いい」


一言、それだけ告げると教室をでる。

先ほどの男子生徒の僕を揶揄する言葉が後ろから付きまとう。

ええい鬱陶しい。僕はパンダではない、田螺だ。


「田螺」


先ほど授業で自信満々に回答を歌うように読み上げた女。


「才川、千里」

「ええ、私は才川千里よ。貴方まともにコミュニケーションをとれないの?

名前を呼ばれて名前で返すなんて」


なにやら嫌味を言われ始めた。

心の中ではこんなに饒舌なのにと言い訳をしたいが口からアウトプットすることが

苦痛なのだ。というよりエネルギーの無駄遣いとさえ考えてしまう。

なにより言葉というものには。

ここで初めて才川の顔にかかるに気がついた。


『しんじゃうのかな』

「・・・・」


僕は踵を返す。

彼女の顔をろく見られない。

臭い。

気になる。

臭い。

気になる。


「ちょっと、貴方ねえ。なんの話もなしに呼び止めるわけないでしょう。

さっきの授業、もうちょっと集中しなさいよ。ねえ!聞いてる!?」


ツカツカと廊下を歩く。

文句の連続が僕に雨のように降りかかる。

臭い。

気になる。

臭い。

気になる。

気になる。

気になる。

気になる。

臭い。

ああ、ダメだ、限界だ。言ってしまおう。


「才川、君。・・・呪われているよ」

「は?」


当たり前の反応。

そりゃそうだ。所謂陰キャ全開の日々机とベッドだけが友達の気持ちの悪い

男子生徒からの謎の忠告。

この言葉から派生する展開は二つ。

気味悪がってここを離れる、二つ目は


「君、喧嘩売ってるの!?」


怒り心頭。前者であれと願った僕の中の祈祷士達の力なさに嘆いた。


「話が唐突過ぎた・・・部室に来てくれないか」

「は?本当になんなの・・・?気味悪いんだけど」


おっと、これを先に持ってきて欲しかった。

できればそのまま帰ってほしかった。


「嫌ならいいんだ、ただ少し君の話を聞きたかっただけで」

「・・・べついいけど」


意外にも素直な反応に驚く。

急にしおらしくなってしまった。

一体何なのだ。

僕達は校舎の階段を登る。新校舎と旧校舎の渡り廊下。

旧校舎は主に音楽室や図書館など施設と各文化部の部室にあてがわれる

目的の無い会議室や準備室。

さぁたどり着いた。


「ようこそ、コミュニケーション部へ」


############################


雨音がうるさい。

部室のカーテンを開けるも見渡す限り残念な雨景色。


「普段は夕焼けがきれいなんだけどね」

「そんなことはいいから。君霊感あるんでしょ。・・・呪い

・・・ってなんなのよ」


才川の顔が青い。

思い当たる節はあるらしい。


「呪い、呪詛、妖怪、怨恨、怨嗟どんな言い方もできるけど、

今君に憑いているのはそんな存在だね」

「じゃあ、わかってるなら!なんとか・・・なるのよね」

「どうだろう、ひとまず君がどうしてそうなったか、教えてもらえる?」

「・・・ええ、わかったわ。わかったけど、誰にも言わないでね」


そういって彼女は恐る恐る口を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る