溶ける記憶 溶ける心

彼女と付き合ってから二ヶ月。あっという間に冬になった。デートも何回か行って、楽しく過ごしている。この前一緒に病院に行ったら、6割ほど溶けていることが分かったそうだ。俺の記憶も。彼女の心が俺の記憶がつながっているのは確かだ。でも、俺はなかなか過去のことを思い出せない。あの夢さえ見ることができたらいいのに。そう言って、今日はいろんなことがわかったし、疲れたので寝ることにした。

「今日はあの夢を見ることができるかな」

そう言って眠りについた。だが、結局その日もあの夢を見ることができなかった。

朝になっても夢のことを考えていたが、さすがに彼女の前でそんなことを考えるのはやめた。登下校はいつも彼女と一緒に行っている。彼女は表情が豊かになっていくのを見ると安心する。学校について、俺は山田に過去の俺を聞いてみた。手がかりになるものはなかった。だが、山田と俺のアルバムをあるそうなので今日は山田の家に行くことになった。もちろん彼女も一緒だ。俺合わせて三人は山田の家に上がって、早速見てみた。

「特に手がかりになりそうなのはなさそうだね」

彼女が言った。確かにどれも今思い出せるものばかりだ。もっと、俺が思い出せない記憶のヒントになるものが欲しい。すると、

「あれ、これって誰だっけ」

山田がそんなことを聞いてきた。昔の友達など関係ないだろ。そこに関係のあるやつが乗っているならまだいいが。

「翔太、これ誰だかわかる?この女の子」

女の子?もしかしたら夢で出てきた女の子かも。俺はそう思って急いでみた。そこには

「この子だ。この子と俺の記憶が思い出せない」

俺はそうつぶやいた。そしたら

「これって私かも」

彼女がそう言った。あの女の子が涼音?なら、どうして俺は忘れた? そういえば俺は女の子が車にぶつかりそうになったから俺がかばった。その時俺の頭に「ギーン」といやの音と一緒に頭痛が走った。これは前も同じことがあった。思い出せない記憶を思い出そうとすると症状が出る。これは、意識がなくなるだろ。そう思ったから、

「山田、長時間意識吹っ飛ぶかもしんないだからしばらく寝かしてくれ。そのうち起きるから」

「大丈夫か翔太。とりあえず寝かしといたらいいんだな。遅くなった、小池を家まで連れて帰っておくから。ゆっくり休め」

「ありが・・・と・・う」

俺は倒れた。俺が目を覚ましたのが、公園だった。体は小さくなっていた。この夢を見ることができた。そう思ったら、誰かが腕を引っ張った。顔を見た。はっきりとその子の顔が見えた。その子は昔の彼女だった。

「あっちのほうにある公園に行こう。ここじゃつまらない」

そしたら俺は

「ダメだって、お母さんに怒られるよ」

いつの間にか俺はそう言っていた。確かこのまま彼女に流された俺は事故にあう。ここまでは前と同じだった。俺は彼女をかばって、車とぶつかった。その時、

「翔太君、翔太君」

何度も彼女が俺を呼び掛けている。俺は少し目を開けて彼女を見た。

「ごめんなさい、ごめんなさい。私のせいで、私のわがままのせいで。私がいい子じゃないせいで翔太君は、翔太君は」

彼女は泣きながら言っていた。そして何かが割れそうな音がした。

「私がいい子でいるから、私の心を凍らすから、私を凍らしていいから、お願い神様。翔太君を死なせないで。私の夢を・・・約束をかなえなくていいから」

彼女の夢。彼女がかなえたかった夢。彼女との約束。そうか、これが原因だったのか。俺がかなえないから彼女は心が凍ったんだ。

そしてそこで夢は終わった。俺は目が覚め体を起こした。凍ったものが解けなかった、割れなかった。まだ続きがあったのか?

よく見ると彼女は俺を泣きながら見ていた。

「早かったね。まだ三〇分もたってないよ」

確かに、早かった。時間的には帰らないといけない時間だったから帰ることにした。いろいろ整理したいがでも、今は、

「涼音、今の涼音の夢は何?」

「夢は今のところないけど、それがどうかした?」

俺ははっきりと言ってやった。

「六年前の事覚えてる?俺は涼音が約束したこと。俺は涼音の夢をかなえるっていう約束。涼音の夢は俺にしかかなえられない。だから約束した。俺が夢をかなえるって」

彼女は泣いていた。少し彼女を落ち着くのを待った。でも

「続き、話していいよ」

彼女は泣きながら言った。

「俺は涼音の心を溶かすよ。助けるよ。約束を最後まで果たして見せる」

『パキッ』そんな音が聞こえた。

「俺はあの時の約束を果たす。本当の涼音で、本当の俺で、約束を果たすよ」

彼女はもう涙が止まらなさそうだった。そして「パキッン」はっきりと割れた音がした。でも何かが残っていた。だが言いたいことは一つだけあった。それが正しいかはわからないがでも言いたい。だから言った。

「お帰り、涼音。そして、好きだよ」

彼女は泣いたまま顔を上げて

「ただいま、翔太君。私も好きです」

そしたら、何かが溶ける音がした。記憶がすべて戻ってきた。彼女のほうは心が全て溶けたようだ。まるで春が来るような温かさになった。

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