第63話 ダンジョンマスターズ

 私はダンジョンに潜っていた。

 ダンジョンと言っても、別にモンスターが出てくるような地下神殿とかではない。


 とあるハイテクビルのケーブル孔の中を這いずり回っているだけだ。



 灯りは額のランプのみ。

 その中を、「ある物」を探して歩いている。

 ケーブル孔の大きさは縦横1.5メートルくらいの四角形。

 一応、腰をかがめれば動ける程度だ。

 ただ、当てにしているダウジングロッドは、ぴくりとも動かない。


「あった?」

 イヤホンから、雅の声。

「まだない。そっちは、誰かに見つかったりしてない?」

「うん、大丈夫」


 地下のサーバールームのケーブル孔入り口には、雅がいる。

 そこで、私の発見報告を待っている。


 まあ、頑張るしかないよね。

 すると、ダウジングロッドがすうっと動いた。


 右方向。

 少し動く。


 ダウジングロッドは、一枚のパネルを示していた。


 電動ドライバーを取り出して、ネジ止めのパネルをゆっくりと取り外す。

 雑にやると、このビルというか、このビルに入っている、様々なサーバーの通信が止まってしまう可能性がある。


 かつての職業柄、そういうところには、敏感にならざるを得ない。



 そして、見つけた。


 御札があった。

 御札と一緒に、丁寧に束ねられた長い髪の毛。



 こんなところにあったのか……。

 そりゃ、上っ面だけ探しても見つからないわ。



「見つけた」

「持ってこれるような状態?」

「置いてあるだけど……、触ってもいいもの?」

「祟られるかもね」



 実際、祟りを呼んでいる根源だから、タチが悪い。



 私たちの仕事は、このビルで頻発する霊現象を鎮めること。

 そんなの、お坊さんとかの聖職者側の人がやるべきことで、悪魔の使い魔のやる仕事ではない、という私たちの主張に「悪魔の喜びは人々の幸せ」と、私たちのご主人さまがうそぶいたので、やる羽目になったのだ。


 まあ、誰かが幸せになれば、誰かが相対的に不幸になる。

 そんな人の機微が、あの悪魔の大好物なのだから、仕方ない。


 ついでに、人助けに見えることをするのは、実は意外と気分がいい。



「使い魔でも祟られるかなあ」

「私たちの部屋に、大量のゴキブリとか出現したら、私、あなたを殺しちゃうかも」

「はい。触りません」



「ここで祓うよ」



 リスクはある。

 こんな場所で、何かあった日には、私たちは逃げられない。



 だけど、まあ。



 私はマジックを取り出した。

 そして、スマホで、指定された魔法陣を、御札の貼られた場所の周りに書いていく。



 閉じ込める呪い。

 端的に言えば「〇〇しないと出られない部屋」を作るための道具。

 これを使って、呪い自体を封じ込める。


 あとは、その呪いをかけた者の力比べだけど、真正悪魔に勝てる魔力の持ち主なんて、そうはいない。



 それを信じて、魔法陣を書く。



 書き終わったら、ピカっと光るとか、何かそういうギミックがあるといいのだけど、あいにくそんなものはない。


 地味に終わり、というのが現実だ。



「完了」



 とりあえず、パネルを元通りに閉めて、百八十度転回。



「戻るよ。準備しておいて」

「おっけー」





 スマホで完了のメッセージを送ると「ご苦労さま」の返信。




 着替えて、ビルから抜け出す。




 日はまだ高い。

 何事もなかったように、世界の時間は過ぎていく。



 あの、ちょっと馬鹿げた事件から、三ヶ月が過ぎていた。

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