第59話 悪魔の選択 1

「まだ、生きてる?」

 背後から声。


 振り返ると、そこには悪魔。


「み、雅が……」

「まだ生きてる?」


 悪魔が駆け寄った。



「頼む、何とか助けて。お願いだから。僕の魂でも何でも持っていっていいから」

「もう、あなた、魂差し出してるでしょ。大丈夫。死んでない人間を助けるくらい、何の代償もいらないわよ。むしろ、ちょっとやってもらいたいことがあるの」

「やってもらいたいこと?」

「はいこれ」


 空中にいきなりナイフが現れた。

 僕は慌てて受け取る。



 ナイフと言っても、ずいぶんと大きい。

 そして、湾曲した刃が特徴的。

 あ、グルカナイフだ。これ。

 東郷さんのコレクションに、これを使う主人公がいた。



「で、これを?」


「これで天使を殺してください」

「ど、どういうこと?」



 助けてくれるんじゃないのか?



「私たち悪魔は、あいつらと相性悪くてですね。殺せないんですよ」

「殺せ……ない?」

「ええ。あいつら天使ですから」

「はあ」

「だから、あなたがやるんです」

「ど、どうやって」

「そのナイフで、あいつの心臓を貫いてください。そうすれば死にます」



 僕はナイフの柄を握りしめた。



「小さな身体には、小さいなりのやりようがありますよ」



 悪魔はそう言って笑った。


 くそ。

 何か嬉しそうだ。こいつ。



「まあ、悪魔ですから」

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