第58話 走馬灯 4

 だけど、何もわからなかった。

 ろくすっぽ話すこともできないコミュ障には、探偵のマネごとなんかできない。



 僕は会社をやめた。



 しばらくすると、得体のしれない黒スーツの男たちに囲まれた。

 そして、裏通りで殴られた。


「あまりこそこそ嗅ぎ回るな」



 痛む身体を引きずって部屋に帰った。



 絶望した。




 だけど、何もできないことには変わりはなく。

 別の会社に再就職した。



 相変わらずの派遣業務だったが、モチベーションが上がることはなかった。



 東郷さんがおすすめしていた本やゲームを買ってみた。

 いい年したおじさんだったが、好きだったのは純愛の世界だった。



「こんなもの読んでいたのか」



 仕事は炎上を繰り返す。

 僕の積んだ仕事は、一切顧みられることはなく。



 とても疲れていた。



 いつの間にか白いワンピースのお姉さんが立っていた。

 部屋の中に。



 あの、橋から飛び降りたお姉さんが、こっちを見て笑っていた。


「こんにちは」


 にこりと笑った。


「何を見てたの?」

「さあ、何も、かな」


「とっぷりと日も暮れて、あまりいい日じゃないわよ」

「来るなってこと?」



「そうね。お別れするにも、いい日と悪い日がある」

「お別れ?」

「そう。お別れ」

「まだ早い?」

「そうね」

「僕はどうすればいい?」



「生まれ変わってみたら?」



 そして、僕は生まれ変わる選択肢を選んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る