第44話 幕間

 新幹線の中、草川瑛太は弁当箱を開けた。

 そこには、小さなおにぎりと卵焼き。それと唐揚げ。


「まあ、可愛い」



 江里は喜びの声をあげた。



「あの子じゃないけど、あの子の一部は、ああやって幸せになっているのよね」

「そうだな」



 瑛太は、卵焼きを一つつまんで口に入れた。



「お前が作る卵焼きと同じ味がする」

「え?」



 江里も慌てて口にした。

 みりんの味がふわりと口に広がった。



「そうね、うちの味。だけど、まだまだ未熟ね。今度会ったら、作り方、きちんと教えなくちゃ」

「そうだな。今度会えたら、そうしよう」




 二人は、娘の顔を思い浮かべた。



 十年と少し前、あの事故が起きるまで、娘は元気に暮らしていた。

 世界を塗り替える原発事故。

 その事故で、娘は若い命を落とすことになった。



 憎かった。


 安全と口にした電力会社が。

 対応は万全です、と口にした行政が。



 瑛太自身は、原発は必要悪だと考えていた。

 安定した電力が、この国を支えている、その思いは、今も変わらない。



 だが。



 娘を見殺しにした事実。

 それは、決して覆らない。



 だから復讐する。

 そのためなら、何でもする。



 その想いは何も変わらない。



 鞄の中に隠した「それ」が瑛太たちの想いを叶えてくれる。



 東京へ着いた二人を一人の男が出迎えた。

「煌めきの空」の東京支部を仕切っている男。


「準備は整っております。到着をお待ちしておりました」

「ご苦労。では始めよう。この世界を蝕む病原体に、鋼の一撃をくれてやるのだ」

「はい。こちらへ」



 二人は男の促すまま、一台のバンに乗り込んだ。



 そして、そのまま東京の喧騒の中に消えていった。

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