第13話 パソコン部
「秋の文化祭までに、文化祭用のwebサイトを立ち上げなきゃいけないの。ちょっといろいろ大変で、助けてほしいの」
「え、えーっと」
ちらちらと雅に目線を送る。
にこにこと笑っているだけで、応援はない。
「お願い。優秀な3年生が抜けて、正直ピンチなの。部活に入っていることで、内部進学の評価は上がる仕組みだから、あなたにとって、あまり損はない……と思う。もちろん、他の部活に入りたいなら、止めはしない。でも、よかったら考えてほしいの」
「真琴さん。先輩、困っていらっしゃるわ」
雅が、そう声をかけてきた。
そして、ちょっと耳打ち。
「うちの学校は、結構部活やってるやってない、で評価違うから。あと、生徒会にはちょっと誘えないから……」
生徒会は、先生の推薦、もしくは役員からの直接勧誘というスタイルだと聞いていた。
まあ、エリート養成の場ではあるわけだ。
「だから……、部活やってると、一緒に帰れるかな……って」
ちょっと顔が赤い。
あー、うん。わかりました。
そして、少し離れてきっぱりと。
「あたしたち、そろそろ生徒会があるから行かなくちゃ。今日は、四時までだから、終わったら一緒に帰りましょう」
にこり。
あ、顔から赤みが消えている。
どうしたことだ。
でも、まあ、要するに、四時まで先輩に付き合えってことね。
はい。わかりました。
「わかりました。じゃあ、お話聞かせてください。部室とかあるんでしょうか」
「ありがとう!」
そう言って、手を握られた。
「四階のPCルームが部室になっているの。そこでお話しましょう」
「はい」
僕はそう返事をした。
「じゃあ、雅、また後で」
「はい。行ってらっしゃい」
まあ、僕も何かやったほうがいいのだろう。
パソコン部……。まあ、選択肢としては悪くはないだろう。
昔中学に通っていたころは、漫画研究会だった。この学校の漫画研究会とか、腐女子のたまり場みたいなものなんだろうし、ちょっと距離を置きたい。
そんなことを思いながら、PCルームに入ると、そこには誰もいない。
「あれ? 部室じゃ……」
「ごめん。本当の本音を言うと、ちゃんと動いている部員って、あたししかいないのよ」
「ええっ?」
「みんな、幽霊部員でね。なかなか出てきてくれなくて……」
美穂子先輩ががっくりと肩を落とす。
「だますつもりじゃなかったの。だけど……」
僕は指一本立てて、その言葉を封じる。
「だまされたとは思ってません。先輩が困っているのはわかりました。だから、困り事は何とかしましょう」
「本当? 一緒にやってくれるの?」
「やれる範囲で」
ざっくり状況を確認。
締め切りは、文化祭の二週間前リリース。
学校のwebサイトに、特設エリアとして設置。
学校のサーバーにFTPでアップして構築する。
CMSの利用予定はなし。
HTMLとCSSで組む。
ぐらい。
面白くないよな……。
「アップする記事とかはあるんですか?」
「新聞部が協力してくれているわ。いろいろと去年の写真とテキストはもらっている。あと、実行委員会から、今年のスケジュールとか、ポスターのデータとかも」
「ふーん」
「わかりました。美穂子先輩、どういう手順でつくるように考えられていました?」
「あ、ちょっと待って」
そう言って、手書きのワイヤーフレームを見せてくれた。
中学生にしては、よく描けている。
どちらかと言うと、デザインとかの方が得意な感じかな。
「すごいですね。わかりやすい」
「ありがとう」
「これを元にして、ちょっとテンプレ探しましょうか」
「テンプレ?」
「使っていいPCってどれでしょう? ちょっと検索したくて」
二人で、webを検索して、いろいろと確認。
テンプレさえあれば、諸々の記述が楽になる。
もちろん、フリーのものしか使えないけど、中学の文化祭用なら、その程度でいいさ。
美穂子先輩、実年齢から見れば、相当年下なわけだけど、現時点では僕の方が年下という、なんとなく倒錯した関係性だ。
物作るのが好きっぽい。
で、年下への気遣いもちゃんとできる。
割と一生懸命やる人のようだ。
こういう人なら、ま、いいか。
結局、その日のうちに、テンプレを確定。
ざっくりとしたスケジュールまでを決めてしまった。
ざっくり一ヶ月くらい。
一日、実働2時間くらいだけど、二人でやれば、まあ何とかなるだろう。
あれこれ進めていると、PCルームの入り口にお迎えが。
雅だった。
「一条さん、斉藤さんって、とてもすごいの。さすがだわ。これでwebサイト、ちゃんと何とかなるわ」
美穂子先輩が雅に声をかけた。
「私の自慢の親友ですから」
おお。すごい褒め言葉だ。
僕は鞄にあれこれ片付ける。
「ここは閉めておくから。今日は大丈夫」
「ありがとうございます」
一礼して、雅とともに、廊下へ。
「あ、ちょっと待って」
美穂子先輩が何か思い出したように鞄をあさっている。
「あった」
取り出したのは何かのチケット。
「あげるわ。お二人でどうぞ」
それは、フルーツパーラーの500円チケット。
それも二枚。
「ジュースくらいなら飲めるわ。ケーキセットはちょっと……だけど」
「ありがとうございます」
雅が礼をする。
僕もあわてて、礼。
「雅さんはご存知だと思うけど、寄り道は禁止よ」
「はい」
帰り道、そのチケットでストロベリージュースを、二人で飲んだ。
幸せっていうのは、こういうものかな、と思った。
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