第14話 配達

 満タンにした、魔法瓶っていうのは結構重い。

 ついでに、それを一人あたり三本とか持っていると、なかなかに重い。



 繁華街の交差点で待つこと三十分。

 ラッパーみたいなお兄さんが僕たちを呼び止めた。



「ヘイ、キューティーガールズ」



 無言で手をひらひらさせる。



「デリバリーの人たち?」

「はい。『スティーブさんに、テレビ塔の上に』と」

「そうか。『鳩は好きかい?』」

「『糞をするから嫌い』です」



「オーケイ。ジュースを六本。よろしく頼むぜ」

「はい。かしこまりです」



 そう言って受け取った、ステンレスの魔法瓶。



 二人で三本ずつ。

 僕はリュックに。

 雅はトートバッグに。


 それぞれしまって、地下鉄の駅へ。



 ちょうどやってきた列車に乗れるよう、ちょっと早足。

 駆け込むように、滑り込む。



 同じように、バタバタと乗ってきたおじさんが二人。

 ちょっと強面の顔。

 大人なのに、マナーがよくない。



 僕たちは、あいてる席に並んで腰かける。



 すると、強面おじさんの一人と目が合った。

 いきなり逸らされた。



 あ。

 こっちを知ってる。



 ふーん。



 ちょっと、警戒しつつ、素知らぬ顔。

 雅にそっと耳打ちしようとすると、にっこりと笑われた。



 皆まで言うな、という意志を感じる。



 はいはい。



 さて、駅が近づいてきた。



 じゃあ、やるか。



 二人で立ち上がる。

 おじさんズが近づいてきた。



 ホームが見えた。



 よし。



「ダッシュ」



 僕と雅はいきなり列車の中を走り始めた。



 おじさんズが追いかけてくる。


 ドアが開くとそのまま外へ。

 本気走り。


 おじさんズも同様。


 駅員さん発見!

「助けてー!」

「あの人たち、痴漢してくるんです!」



 女の子二人の叫び。



 駅員さん、怒りのダッシュ。

 おじさんズも怒り。



 正面衝突。



 その隙に改札から外へ出る。



 出たところはショッピングセンター。

 そのまま店の中へ。



 下着売り場へ直行して、二、三枚ショーツを手に取り、フィッティングルームへ。

 息をこらす。



 十分ほど、時間を潰して、ゆっくりと外へ出る。



「まけた……かな」

「今のうちに行きましょう」



 とりあえず、店の外へ出て、もう一度、地下鉄へ。




 終点の高岳駅で降りる。

 そして、改札を出て、南へと向かう。



 五分ほど歩くと、そこは老人ホーム。

「こんにちは。杉崎さんって方、いますか?」



 しばらくすると、優しい顔のおじさん。

 この人が杉崎さん。



 その時、いきなり視線を感じた。


 振り向くと強面おじさんズがそこにいた。



「どうしましたか?」

 じろりと睨む。

「この子たちは、フレッシュジュースを届けてくれただけですよ」

 にこり。

「さあ、入ろう」

 強面おじさんの一人が杉崎さんの肩をつかんだ。

「何か勘違いしてません?」



「……」

 無言の圧力。



「仕方ないなあ。飲んでみますか?」


 私が渡した水筒をあけ、コップにジュースを注ぐ。

 甘い香り。

 マンゴーとバナナのミックスジュース。



「どうぞ」



 おじさんは香りをかいだ。



 そして一口。



 苦い顔。



「美味しいでしょ」



 杉崎さんは笑う。



「では」



 僕たちは、老人ホームへ入った。


 おじいちゃん、おばあちゃんたちとともに、歌をうたい、ゲームをして、ひとしきり遊んだ後、杉崎さんが駅まで送ってくれた。



「じゃあね」



「ありがとう」




 そう言って、別れた。





 そして、その翌朝の新聞に、小さな記事が載った。



 高岳駅近くの工事現場で、二人の男性と口論になり、その二人を包丁で刺して殺害したとして、近隣に住む43歳の男が東署に殺人の疑いで逮捕されました。調べに対し、男は容疑を認めているということで、東署が詳しいいきさつを調べています。


 逮捕されたのは、老人介護施設に勤める介護職員、杉崎尊容疑者(43)です。


 東署によりますと、杉崎容疑者は昨晩、工事現場で、口論になった二人の男性の首を包丁で刺して殺害したとして殺人の疑いが持たれています。


 その日夜遅く、杉崎容疑者が出頭してきて「人を殺したので自首しにきました」と話したことから事件が発覚したということで、東署の調べに対し容疑を認めているということです。


 東署は、二人の男性の身元の確認を進めるとともに、事件の詳しいいきさつを調べています。

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