第12話 私立聖天使楽園学園女子中等部一年C組

「はじめまして。斉藤真琴です」

 一礼。


 リアクションはあまりない。

 まあ、見渡す限り、女子だらけ。


 窓際の隅に、雅の顔が見える。

 同じクラスなのは、ちょっとホッとする。



 席についたら、オリエンテーションスタート。

 まあ、二学期最初の日だからね。

 そんなにざわつくことがないのは、どうも「過去の記憶」にある中学校とは違う。



 そして、一時間目が終わる。

 先生が退出する。


「ふう」と一息。


「真琴さん、一条さんのご推薦なんですってね」

「は、はい」

「天才プログラマーっていうお話を伺いました。そうなの?」

「え?」



 あ、あの面接のときに打った手か。

 天才というのはちょっと違う。

 それが職業だっただけで……。

 あー、まあ中学生レベルと言われれば、まあね。



「ほら、一条さんのお宅って、あそこでしょ」

「ええ」


 口に出たのは、かなりメジャーなITベンチャー。

 あ、そう言えば社長の名前は一条……。

 雅のお父さんってそういう人だったか。


 お金持ちとは思っていたけど、そういう部分に気づけないのは、僕の残念なところだ。



「やはり、一条さんのお父さまに見いだされたの?」



 あ、そういう考えになるわけだ。



「あ、あの……」



「私が父に紹介したの」

 雅が乱入してきた。

「真琴は凄いのよ。すごい大きなコンピュータの前で、ずっとキーボード叩いているの」

「へえ」

 座が盛り上がる。


「ねえねえ、ハッキングってできるの?」


 え?


「ドラマでよくあるじゃない。どんなことでも調べられるみたいな」


 あー。中一だと、そういうイメージか。


「それはドラマです。私にできることはアプリを作るくらいで」


「アプリ作れるの?」

「え、ええ」

「すごーい」



 そこに、いきなりチャイム。



 瞬間、皆が一斉に散った。

 先生が入ってくるときには、皆何もなかったように、席についている。



「起立」

 当番の子の発声に合わせ、全員が立ち上がる。

「礼」

 僕は周囲を見ながら、合わせて動く。

「着席」

 一糸乱れぬ行動は、さすが県内有数のお嬢様学校だけはある。



 二時間目からは普通に授業。

 一応、真面目に聞くけど、ちょっとレベル高い。

 中一って、こんな感じだったっけ?



 そして、お昼。

 今日はお昼で終了なので、ここでおしまい。

 部活がある子は、そのまま残るので、大体クラスの半分くらいが帰宅の準備をしている。



 雅は生徒会と聞いている。

 で、今日は残るので、お昼までは一緒、というのが出掛けるときの約束だった。


 一年生で生徒会っていうのもどうかという気はするけど。



「食堂行きましょう。案内するわ」

 雅は笑顔で声をかけてきた。

 僕はその言葉に立ち上がる。


「雅さん、お昼? ご一緒させてもらっていいかしら」

「いいわよ。真琴のこと紹介したいし」

「ありがとう」


 僕や雅よりもちょっと背が高い。

 スタイルも、中一にしては立派な感じだ。


 歩きながら自己紹介。


「雅さんの友人で、堤下楓と言います。同じ生徒会ですの」

「はじめまして。斉藤真琴と言います」

「聞いているわ。結構、真琴さんの噂話、よくするのよ」

「えっ?」

「あまりいい出会いではなかったみたいですよね。でも、夏前かしら。結構愉快なお話を聞くようになったのは。あ、そうそうチラシのモデルを一緒にやったそうね。でも、そのチラシ、見せてくれないのよ」

 あ、そんなことまで。

 ちょっと苦笑い。

「楓。真琴がひいてるわよ」

「あら、ごめんなさい。そんなに仲いいのに、全然紹介してくれなかったんですもの。ちょっとくらい意地悪したくなっても、仕方ないでしょ」



 うーん。女子同士って、こんな感じなのか。


「さ、今日は何食べます?」



 到着した食堂は、なかなかに立派なものだった。

 見渡す限りの席、また席。

 カウンターで料理を受け取って、最後にカードで精算する、カフェテリア方式。



 雅はランチ。日替わりらしい。僕はカレーライス。楓は天ぷらうどん。

 メニューも結構豊富。メニュー表を見ると、大体ランチ二種に、定番品が並ぶ、といった感じの様子。

 明日はオムライスにしようかな。



「いただきます」

 二人も同じように手を合わせて「いただきます」とつぶやく。


 そして、互いにジャブを打って、会話の端を探す。

 とは言うものの、共通の話題は、やはり雅だ。



「雅はねー、真面目さんなのよ。ズルしないというか」

「そうですよね。きっちりしている感はあります」

「あたしたち、二人きりの一年生なんだけど、雅がしっかりしてるから、私、追いかけるの大変なの。あたしは、そのへん、いい加減だから」

「楓」

「きゃー、怖い」

「楓は、そういうこと言うけど、先輩たちから可愛がられているのは、楓だからね。私よりも愛想もいいし、明るいから人気あるじゃない」

「営業はあたしがやるから、バックヤードはよろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げる。

 思わず微笑む。

 いいコンビだ。



「でもねー、こんなしっかりしてる雅でも、とある欠点が」

「欠点?」

「虫が怖い。特にG」

「ああ。はい。」

「え、知ってるの?」

「はい。ものすごい騒ぎますよね」

「ふふふふふ。では、林間学校の話をしてあげよう」

「それはいったい」



「 や め な さ い 」



 雅のチェックが入った。



「何、話しているのよ」

「いや、まあ、共通の話題って言えば、雅だし」

「もうちょっと、楓のプロフィール聞くとかあるでしょう」

「じゃあ、楓さん、プロフィールを」

「射手座AB型。学年成績は大体一桁ぐらいをうろうろと。彼氏なし。生徒会。あ、あと家は呉服屋だから。着物揃える時は言って。お値打ち品を紹介するわ」

「ありがとうございます。学年成績大体一桁って、成績いいんですね」

「天才プログラマーと評判の高い真琴さんほどではありませんわ」

「えー、そのイメージ、ついちゃってるんですね」

「そうですね。噂話が広がるのは、とても早いですわよ」



「ちょっとよろしいかしら」

 三人でのお話に、いきなり割り込みの言葉。



 見上げると、一人の女生徒。

 眼鏡に広い額が目立つ女子。

 きりりと引き締まった眉は、意志の強さを感じる。



「私は二年の吉田美穂子。パソコン部の部長をしているの。斉藤さんっていうのはあなた?」

「は、はい」



 女生徒は、右手でくいっと眼鏡を上げながら言った。



「噂は聞いているわ。パソコン部に入らない?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る