第7話 お姉さんはお姉ちゃんのお友達?
「こんにちは。お姉さんはお姉ちゃんのお友達?」
雅の家は、郊外の住宅街のちょっと豪奢な一軒家だった。
一応、ちゃんとした服を着て、のお呼ばれモード。
訪ねた最初に出迎えてくれたのが、雅の弟、智哉くん。
ちょっと明るめの色の髪を持つ、可愛い美少年だった。
「小学生?」
「はい。三年生です」
きっぱりとしたお返事。
出来のいい子だね。
部屋全体はナチュラル系というか、可愛い系というか。
テーブルの上には生花。
オリジナルのタペストリーなんかも飾られている。
そういうのが、お母さんの趣味なんだろうなあ、と。
「いらっしゃい。いつも雅と仲良くしてくれてありがとう」
にこやかに迎えてくれた。
レースのエプロンがふわふわしている。
テーブルの上は、色とりどりの洋食系の料理が積まれている。
「智哉がこういうのが大好きなのよ。真琴さんは、こういうの好き?」
「あ、はい。大好きです」
まあ、女の子は、こういう食卓、きっと好きだよね。
雅は、僕の隣で笑っている。
だけど、何となくその笑顔に陰があるのは、気のせいかな。
食事が始まると、お母さんが積極的に話してくれる。
こういう場で、しきっていくタイプなのかな。
でも、僕は黙ってしまうタイプなので、正直ありがたい。
「雅はとてもいい子なのよ。でも、智哉はね、毎日私のお手伝いをしっかりしてくれるの」
「雅はね、音楽が大好きなの。ピアノもずっと習っていたのよ。最近はちょっとサボり気味よね」
「ごめんなさい」
「智哉はバイオリン習っているのよ。今度、コンクールに出ることになってね」
うん?
「真琴さんは、音楽は?」
「あ、いえ、私はそういうのは」
「そう? バイオリンは素晴らしいわよ。習いに来ている方は、みんないいところのお子様でね。先日、お友達の家に、智哉といっしょにお呼ばれして、客間で小さな演奏会をしたの。素晴らしかったわ」
あ。
これは……。
雅をさり気なくDisっている。
え?
「真琴さんは、親御さんを亡くされて、お一人で暮らしているんでしたよね。ご立派だわ。そういう自立心は、しっかりしているのね。雅も、いつまでもお父さんに甘えるばかりでなく、きちんとしないとね」
「はい。お母さん」
雅は、気づかないふりをして、笑顔で返事。
僕は、ここにいてはいけない気がした。
お呼ばれとは言え、ついふらふらと来てはいけなかったんじゃないか。
横目で、雅を見る。
笑っていた。
普通に。
「ご飯食べたら、私の部屋に行こうか」
「ありがとう」
「美味しい? 真琴さん」
「ええ。とても美味しいです」
「お母さんが亡くなると、どうしても、こういう手のこんだもの、なかなか食べれないわよね。たくさん食べていってね」
「はい。ありがとうございます」
同調。
空気を読んで、その流れに乗る。
僕は、おなかいっぱい食べた。
ひさしぶりに胸焼けがした。
ごはんのせいかどうかは、よくわからないけど。
雅の部屋は、大量の本が目立つ部屋だった。
本棚がたくさん並んでいる。
漫画だけでなく文庫本、新書もたくさん。
ミステリ、ファンタジーにSFまで。
基本エンターテイメントなのは、ちょっとほっとした。
純文学とか、並んでいたら、ホント、どうしようかと。
「すごい本の量だね」
「あなたも似たようなものだったじゃない」
「まあ、それはたしかだけど」
「ごめんなさい」
「何?」
「嫌な想い、させちゃったよね」
「気にしないよ」
「平気……なの?」
「は? そんなわけないじゃん」
「ごめん……」
「お父さん、再婚でさ。本当のお母さんかどうかとか、私は関係ないって思っていたんだけどね」
ちょっとだけ俯く。
そして、顔を上げて、笑顔を見せた。
「そうじゃない人もいるんだなって」
その笑顔は、とても眩しくて、僕は思わず息を飲んだ。
「何か、できることがあれば」
「大丈夫。これもあたしへの『罰』なんだと思うし」
「罰?」
「ごめん。何でもない。忘れて」
触れてほしくなさそうなので、僕は黙ることにする。
何となく、部屋に沈黙が流れる。
気まずい。
帰ったほうがいいのかな?
「ねぇ、そろそろ……」
「駄目。いて」
がしっと、手を掴まれた。
「お願い」
「わかった」
僕は本棚を覗く。
「ねえ、これはどんな話?」
一冊取り出す。
タイトルだけ聞いていて、読んだことのないまんがの本。
たしか、アイドルの話だったはず。
「あ、それ読んだ方がいいかも。男の子が、好きな女の子のため、女装してアイドルグループに入る話。真琴は好きなんじゃない?」
にこりと笑う。
まあ、女装と美少女化の間には、元素材という致命的な格差があるんだけど。
「ふーん。アイドルかー」
ぺらぺらめくるうちに、やたらと面白くて、次から次へと手に取ることになった。
いつの間にか、雅が隣に座っていた。
ずいぶんと近かった。
目が合うと、くすりと笑っていた。
そして、読みきれなかった分は、結局山ほど借りて帰ることになってしまった。
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