第20話プロポーズ

「愛奈さん、ぼ、僕と結婚してくれませんか」


 隼人は少し吃りながらも、震えた手付きで指輪の入った箱を差し出す。太陽の光を受けて輝くダイヤモンドは愛奈の顔が映るのではと思うぐらい綺麗だ。

 このプロポーズを受けるか、受けないか。正直な気持ちとしては受けても良い。しかし、一点だけ心残りがある。結婚したら各種手続き、近所へのご挨拶、引っ越しなど――やらねばならぬことが増える。その前に一つで良いから、作品を完成させたいのだ。


「うん。良いけど、結婚の前に一つだけ作品を作りたいの」

「それが終わったら受けてくれる?」

「もちろん。私も隼人さんのこと、好きだからね」


 パァッと隼人の顔が輝く。まるでダイヤモンドみたいだ。


「分かった! 大丈夫、式の日取りは愛奈さんの都合に合わせるよ。だから、しっかり作品に向き合って」

「ありがとう」


 日取りは任せるか、せっかくだから六月にしようかな。ジューンブライドに憧れた時期もあったし。


「それにしてもびっくりしたわ。まさかプロポーズだなんて、まだまだ先だと思ってた」

「実は今日、僕の誕生日なんだ」

「えっ! そうなの」

「誕生日プレゼントになったら良いなーって思ってさ」

「もし私がまだ早いって言って断ってたら?」

「そしたら今度はクリスマスにプロポーズしたよ」


 めげずにプロポーズする気だったのか。隼人は意外なところで思い切りが良い。でもこういうところが愛しいと思う。

 そんな隼人に応えられるように頑張らなくては。でも、今は目の前のデートに集中するべきだ。何せ、今日は隼人の誕生日なのだから。プレゼントをあげられない分、彼のしたいこと、行きたいところに付き合ってあげたい。それが今の愛奈があげられる誕生日プレゼントだ。

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