第16話愛好家の集い

「愛奈さんに紹介したいサークルがあるんだ」


 そう隼人に言われて、愛奈は『電話愛好家よ集まれ!』という――よくわからないサークルの活動内容に耳を傾けていた。

 隼人は熱心にダイヤル式電話機の魅力について語っている。今はもう壊れて使えないらしいが、家には長年使っていたものが保管されていた。ここに来る前にガラス越しに見せてもらったが、定期的に掃除をしていて新品かと思うぐらい綺麗だった。


「なるほどなるほど……どこの家庭でも使っていた時期に生まれなかったのが残念です。でも今の電話も良いですよ! 僕の両親なんかは難しいって言って触れようともしませんが、最新の技術が使われた電話――つまりスマートフォンですね。これは電話だけの機能に留まらないんですから!」


 興奮した様子でスマホの素晴らしさを語りだしたのは、このサークルで一番若い男性だ。もちろん隼人は年寄りじゃないから彼の話にもついていけてるが、年配のメンバーは頭にはてなマークを浮かべながら唸っている。六十代にもなると新しいものを覚えるのは大変そうだ。


「う、ううむ……して、それはこんな老人でも扱えるものなのか……?」

「大丈夫ですよ! 今は苦手な人でも使えるよう機能が制限された、どんな人でも簡単にできる機種があります。良かったらこの後にでも一緒に見に行きません?」


 若人は渋る老人の背中を押して買わせようとしている。彼は携帯ショップの店員のごとく、聞いてもいないのに自分スマホを使って機能の説明を流暢に話し始めた。

 スマホに詳しい若者であれば何を当たり前のことを、と思うような内容でも、老人にとっては何もかもが未知で、理解しがたいものだ。案の定、説明を聞いている年老いた男性は「はぁ」「ほぉ?」と曖昧な返事しかできていない。


「どう? やっぱりつまらなかったかな」


 無言でサークルの活動を見ていた愛奈に隼人が話しかけてきた。


「そんなことないわ。知らないことを聞くのは新鮮で、面白いもの。でも、隼人さんが電話好きだったなんて知らなかったわ」

「なぜかはわからないけど、すごく惹かれるんだ。特に古い型のものはね」

「まあ、そういうのあるよね。理由がわからないのに好きって」


 愛奈にもお気に入りのクマのぬいぐるみがある。クマで、大きいぬいぐるみが好きなのだ。他の動物では意味がない。クマであることが重要なのだ。もし『大きいクマのぬいぐるみ愛好家』なんて集いがあったら所属していたかもしれない。


「それより良いの? せっかくの機会なんだし、もっと語ってきたらどうかしら。私はここでのんびりジュースを飲んでるから気にしないで」

「でも……」

「熱く語っている隼人さんが見たいのよ」


 子供みたいにキラキラしている隼人は見ていてとても可愛い。私の前だとカッコつけようとするから、もっと素の部分を見せてほしい。


「じゃあ帰りたくなったら言ってね。すぐ切り上げるから」

「わかった。楽しんできてね」

「よし、じゃあ決まりですね。さっそくスマホを買いに行きましょう! それでは皆さんまたお会いしましょう!」


 どうやら若人によるスマホの説明会も終わり、老人は完全に納得していないものの購入をする決意を固めたようだ。まるでお爺ちゃんと孫みたいな関係の二人はサークルメンバーに挨拶をして近所の携帯ショップへと出かけていった。


「微笑ましいなぁ」


 オレンジジュースを飲みながら、密かに「……孫も良いなぁ」と呟くのだった。

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