第14話愛妻弁当は甘い味
「はい、愛十さん。今日は大好物の唐揚げを入れたの」
「わぁ! ありがとう!」
「それじゃあ次はいってらっしゃいのチュウね」
「今日は右頬に頼むよ」
「チュッ」
「へへ……じゃ、いってきます!」
「愛奈さんによろしくね!」
プツンと映像が途切れる。何を……何を見せられたんだ……?
「これが朝の光景さ。どうだ、ラブラブだろう」
「えぇ……なぜ、私にこれを見せたの……?」
「愛奈は『愛』が知りたいんだろ? ほら、ここに詰め込まれているじゃないか」
愛十がスマートフォンを操作して再び動画が再生される。ああ、もういい十分だとやんわりと停止ボタンを押す。
「いつ知ったの」
「五日前だったかな。本屋で偶然、ばったりと」
「はぁ……あのお喋りめ……」
友人は口が軽くて困る。
「で、どうだった?」
「お熱いですねー」
「隼人とはどうなんだ? まさか冷え切ってないよな?」
「順風満帆。ちょっと好きになってきた」
「ほほう、遅くても一年後には結婚かな」
「それは早計よ」
しかし完全には否定しきれない。いつか自分達もこの兄夫婦みたいに胃もたれするくらいラブラブになってしまうのだろうか。想像できない。
「それより、唐揚弁当食べたら? ここに来るまでだいぶ冷めちゃったでしょ。ちょうどお昼だし」
「そうだな。動画の続きは食べてからだな」
「何度も見せられても……」
「あれ以外にもあるんだよ。『愛』のある作品を作りたいんだろ? だったら参考になるはずだ」
「そうだけどさぁ」
あれの他にもあるとか、胃がムカムカしてくる。こころなしか口の中も甘くなっている気がしてきた。
「あ、卵焼き食べるか?」
「しょっぱいやつ?」
「ああ」
「じゃあ一個だけいただこうかな」
うん、甘い。お口直しの水すらも甘い。あの動画一つで味覚が書き換えられてしまったようだ。どこにでもありそうな、テンプレートみたいなあの動画だけで。
「それにしても漫画にありそうな感じだったわね」
「まぁ参考に、というかそのまま使ったからね」
「それを聞いて安心した」
あれが日常じゃなくて良かった。
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