第13話遺愛の品
その話は突然飛び込んできた。両親が大切にしていたものを受け取りに来てほしいと、両親の知人だという女性から電話がかかってきたのだ。
「どう思う?」
「うーん……愛奈はマンションの住所教えてないんだよな。怪しくないか?」
不審に思って愛十に相談すると、やはり同じ考えのようだ。兄の様子から、彼が愛奈の住所を教えたわけでもなさそうだ。
「行くならボディーガードに隼人を連れてけよ」
「兄さんは?」
「仕事だ。……そろそろ寝ないと明日に響くんだが」
「あぁごめん。じゃあ隼人さんに連絡してみるね」
「結果は教えろよ?」
「もちろん」
通話を切り、シンと静まり返った部屋で女性から告げられた住所を確認する。愛十には言わなかったが、この住所は墓地だ。両親のお墓もそこにある。
「うーん……なんか怖いなぁ」
一応行ってみるが、誰もいなかったら引き返そう。その後は隼人と一緒に美味しいものを食べて忘れてしまおう。そうと決まれば急いで隼人に連絡をしよう。愛奈は受話器を持ち、隼人の家に電話をかけた。
「今日は本当にありがとう。迷惑じゃなかった?」
「そんなことないよ。たまたま休みで暇だったし、ちょうど良かった。あ、入り口見えてきた」
隼人と共に指定された墓地の駐車場に車を停めて女性の姿を探す。墓地の入口までは誰もおらず、ただのイタズラだったのではと不安になる。
「誰かいないかな……」
「駐車場に他の車もなかったし、イタズラの可能性の方が高いんじゃないかなぁ」
結局、両親のお墓の前まで誰一人すれ違うことはなかった。せっかくここまで来たのだから、両親に挨拶をしておこうと思った時だ、やけに古びた指輪が二つ並んでいるのを見つけた。一年前に訪れた時はなかったものだ。指輪を手に取り、しげしげと眺める。
「これが大切なものなのかなぁ……あ、イニシャルが掘られてる。Y・A……父か母の名前?」
「両親の名前は……」
「知らないんだよね。だからどっちのものかはわからない」
「そうか……それ、どうするの?」
「うーん、勝手に持ってって良いのかしら? でもこのまま野ざらしにするのも気が引けるのよね」
「そういえば明日は強風注意報出てなかった?」
「あ! そっか……じゃあ持って帰った方が良いかな。このままだと飛ばされちゃう」
指輪を二つ共回収し、お墓を綺麗にしてから帰ることにした。この間も墓地にいるのは相変わらず愛奈と隼人だけで、両親の知り合いという女性は最後まで現れなかった。
「ありがとう」
「……? 隼人さん、何か言った?」
「いや?」
「そう……風の音かしら」
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