第12話愛玩動物だって家族
ある日、隼人の実家に行くことになった。ようやく愛奈に対し赤面しなくなり、初めての彼女が出来たということで、両親に報告したいのだそうだ。ちなみに隼人は結婚を前提に付き合っているのだが、愛奈にはまだ結婚は考えられずにいる。
「ワゥワゥ!」
「あ、犬飼ってるんだ」
「モナカっていう名前なんだ。もしかして苦手だった?」
「苦手じゃないよ。臭いさえちゃんと対策してればね」
「ああ、じゃあ大丈夫だ。臭いには気を遣ってるよ」
隼人はドアを開けた瞬間飛び出してきた柴犬を受け止め、ワシャワシャと揉みほぐす。モナカは気持ち良さそうに目を閉じて、飼い主の愛情を一身に受けている。
「あら、いらっしゃい! あなたが愛奈さんね。隼人がお世話になっています」
「はじめまして、吉木愛奈です。こちらこそ隼人さんにお世話になりっぱなしで……」
奥から隼人の母親が現れ、ペコペコと挨拶をしてリビングの方へ通されるが、このやり取り、愛十に佳代を紹介された時に似ている。そして予想通り母親はキッチンの方へ行き、隼人も手伝うと言って母の後を追った。
あの時と違うのは、リビングに居るのがモナカだけということ。父親の姿はない。あれこれと詮索する気はないが、おそらく亡くなっているのだろう。今日は仏壇がある部屋に案内されるかもしれない。
「おっと」
モナカが太ももに乗ってくる。ソファに座っていたから良かったが、もし正座している時に乗られたら足がしびれて無様な姿を晒してしまうところだ。
「まぁ! モナカが乗るなんて珍しいわね」
「そうなんですか」
「ええ、もう年だから動くことも少なくなってね……隼人が帰ってきた時に走り出したのも驚きだったけど、太ももに乗るだなんて何年ぶりかしら……」
「あ! 良いなぁモナカ」
ホットケーキを持ってきた隼人が羨ましそうな視線をモナカに向ける。モナカは「良いだろう」と言いたげな表情をしている。意外と感情豊かだ。
「こいつぅ~」
再び隼人がモナカをワシャワシャと揉む。まるで兄弟みたいだ。もう年だって言っていたし、隼人小さい時からこの家にいて、一緒に育ったのだろう。
「まぁでも、こいつが元気なうちに愛奈さんに会わせられて良かったよ。な、母さん」
「そうねぇ……最近では大好物だった餌もあまり食べなくなってきたし……」
「私もモナカちゃんに会えて良かったです」
モナカの頭を優しく撫でる。ペットは物扱いされることが多いが、何十年も一緒に過ごした人にとっては大切な家族だ。
「私も隼人さんにとって大切な人になれるのかな……」
「愛奈さん? 何か言いました?」
「ううん、何でもない。それより、ホットケーキ食べましょう。冷めちゃうわ」
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