第10話熱愛を受け入れる
ついに、人生初のデートが始まった。お相手である萩野隼人はまだ顔を赤くしている。
「まだ慣れない?」
「あ、あ、あ、すみません」
「大丈夫。責めてるわけじゃないよ。ゆっくりで良いから」
「は、はい」
カチコチと出来の悪いロボットみたいに歩く隼人と共に、愛十が予約したレストランへ回り道をしながら向かう。到着する前に普通の状態になってくれれば良いのだが……。
「ところでさ、私の写真を見て好きになったんだよね? 相当酷い写真だったと思うんだけど、どこらへんを見て好きになったの?」
「あ、め、迷惑でしたか?」
「いや、そんなことないけど……あの時は体調悪くて顔色悪かったはずなのよ。笑顔を見て好きになったんならわかるけど、沈んだ顔をしている人間を好きになれるなんてすごいなって思ったの」
「実を言うと、表情はあまり見てなくて……ま、愛奈さんの、その、醸し出す雰囲気? が良いなと思いまして……愛しいなぁって……あぁ! すいません上手く言えなくて……えっと、つまりは一目惚れ、なんです」
愛奈の手を握って真剣に話す隼人。数秒だが見つめ合っている状態になり、ハッとした隼人は恥ずかしそうに愛奈の手を離して俯いた。真正面から思いを告げられたせいか、愛奈は熱が上がり、体が火照っているのを感じる。こんな、人通りが多い場所でなんてことを言うんだこの人は。と思ったが、べつに悪い気はしなかった。
こちらを微笑ましそうに見ている人から逃げるためにレストランへ急ぐ。今の状態をこれ以上見られたくない。あぁ、歯が浮くようなセリフではなかったのに、どうして。
「萩野様と吉木様ですね、どうぞこちらへ」
レストランに到着してすぐ席に案内される。予約時間より少し早く着いてしまったが、どうやら問題なかったようだ。
どちらも無言のまま食事を進める。どうにも気まずいのだ。デートの終わりには付き合うかどうかしっかり決める必要があるだろう。あんな熱烈な告白をされたのだから。
『愛』についてはまだよくわからない。でも、隼人の愛奈に対する『愛』は本物だろう。まだ数時間、愛奈にしては珍しく……いや、初めて彼となら――という気になっていた。
隼人の熱愛を受け入れる。そのためにはどんな言葉で返せば良いだろう。違う。いつもどおりで良いんだ。余計な力はいらない。ありのままの自分の言葉を伝えよう。
「隼人さん、私とお付き合いしましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。