第7話彫像を愛するピュグマリオン

「はい、はい大丈夫です。返却ありがとうございます」


 愛奈は借りていた恋愛小説を返却するために図書館に来ていた。二週間という期間は長くもあり、短くもある。

 さて、いい加減恋愛小説も飽きてきた。ハッピーエンドもあればバッドエンドもあった。いずれも甘酸っぱい恋だった。創作とはいえ、人の恋路を見るのは胸焼けしそうだ。今日はまったくの別ジャンルの本を読みたい。

 そう思い、滅多に足を運ばない宗教関連の本が置かれているエリアを目指す。今は新たな知識に触れたい気分なのだ。

 宗教エリアは今まで読んできた本からは想像できなかったタイトルの本がたくさん並んでいた。いつもは一番奥にあるとか、歩くの面倒だからいいやなんて思っていたけど、これはこれで楽しい。

 適当な本を手にとってパラパラと読んでみる。……うーん、文字が多くてよくわからない。もっと親しみやすい本が良い。少し宗教とは外れるけど隣の棚を見てみる。


「神話かぁ……あ、いくつか見たことある名前がある」


 わかりやすいギリシャ神話というタイトルの本を読むと、どこかで見たこと、聞いたことある名前があった。


「これなら読めそうかな……」


 愛奈はさっそく本を借り、じっくり読むために寄り道せず帰った。


「えーと……次はピュグマリオン?」


 読み始めてから一時間。意外と面白くてページを捲る手が止まらない。神々の恋愛事情も悪くない。そう思い始めた頃、気になる記述を発見した。

 それは、現実の女性に絶望して自らが制作した彫像を愛したというピュグマリオン。まさかの無機物への『愛』に興味を惹かれたのだ。


「彫像か……確かに現実より理想的だよねぇ」


 もし、彫像とはいえ理想の男性が目の前にいたらピュグマリオンのように、話しかけたり食事を用意したりするかもしれない。

 ピュグマリオンは最終的にアフロディーテによって生命を与えられた彫像を妻にしたようだが、それは神々の世界での出来事だ。現実はいくら愛していようが彫像に生命は宿らない。

 でも、愛奈はそれでも良いと思う。自分が愛してさえいればそれは本物の愛なのだから、と結論づけた。

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