第4話かわいい動物

 動物園特有のツンとした臭いは苦手だ。愛奈は今、兄の嫁である佳代と共に動物園にいる。あまりにも突然の来訪。兄の姿がないからさっそく喧嘩でもしたのかと思いきや、仕事が忙しくてなかなか会えないのが寂しい、とのこと。要は、愛奈に愛十の面影を求めてわざわざ京都から東京まで来たのだ。


「あ、あの子すごく良い! カメラカメラ……」


 佳代は気に入った動物を見つけるとすぐに写真を撮る。そんな彼女の無邪気な様子を側で眺める。この動物園に入ってからずっとこんな感じだ。

 動物は嫌いではないが、好きでもない。普段めったに見れない動物を見られるのは楽しいが、どうしても臭いが気になってしまう。どうしてこんなに臭いのだろう。掃除をしてこれなのだから、もし放置していたら――やめよう、考えたくない。


「愛奈さん、次はあの建物に行きましょう!」


 佳代に引っ張られて『ふれあいコーナー』といういかにも子供向けと思われる建物に入る。こんなところに入ったのは小学生以来だ。

 どうやら今はミニウサギと触れ合えるようだが、幼稚園児がたくさんいて触れ合いどころか姿すら見えない。


「わ~かわいい~」


 佳代は物怖じすることなく幼稚園児に混ざっている。いい年した大人が子供の輪に入っているのは恥ずかしい。思わず目を逸らす。


「かぁいい!」

「あたしも触る!」

「ゥヒヒッ、くすぐったい!」


 ベンチに座ってぼんやりと外の景色を眺める。早くここから出たい。いや、動物園そのものから脱出したい。兄の嫁、ひいては自分の義姉になる佳代と仲違いしたくないから付き合っているが、気分は最悪といっていい。鼻がひん曲がりそうなぐらい臭いのも最悪だ。


「愛奈さん見てくださいこの子! 可愛いでしょう?」


 佳代がミニウサギを赤ん坊のように抱っこして見せびらかしてくる。ああ……『可愛い』にも『愛』という字が入っているな……。


「そうだね、可愛いね……」

「ああ~この子飼いたーい。愛十さんと相談してウサギ飼おうかしら~」


 動物は愛すべき存在だと思うが、今はとてもじゃないけど愛でる気にはなれない。こんな環境でミニウサギに『愛』を注いでいる佳代が羨ましい。愛奈はぐったりとベンチによりかかりながら、羨望の眼差しを向けるのだった。

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