第2話兄と義姉の純愛

「やぁ、愛奈」

「久しぶり兄さん。それにしてもここは随分と田舎ね。森しかない」

「お義父さんが毎年人口減少が著しいって嘆いていたよ」


 愛奈がイメージしていた京都は寺社仏閣はやたらと多く、たくさんの観光客で歩くのもままならないというものだったが、愛十から送られてきた住所を頼りに遠路はるばるやってきたら、人より動物の方が多そうな田舎で驚いた。


「きっと住めば都だよ。さぁ、家はこっちだ」


 慣れない砂利道を歩き、森を5分ほど進んだ先にあった家に入る。壁が蔦で覆われていたから本当に人が住んでいるか疑わしかったが、愛十が一言声をかけると奥から「はーい」と女性の声が聞こえてきた。


「おかえり愛十さん! そちらの方が妹さんですね」

「はじめまして、愛奈です」

「彼女が結婚相手の佳代かよさんだ。仲良くしてやってくれ」


 奥から現れた女性が義姉になるのか。割烹着がよく似合っていて物腰柔らかそうな人だ。


「それでは食事の準備をしますので、居間でお待ちくださいね」


 居間に入ると、ゆったりとソファに腰掛けている男性が出迎えてくれた。彼が人口減少を嘆いていたというお義父さんなのだろう。こちらも佳代に似て優しそうな御仁だ。


「それじゃあ、俺は佳代を手伝ってくるよ。まったく、花嫁だというのに料理が好きなんだから……」


 そういう愛十は嬉しそうだ。本当に佳代のことを愛しているのだろう。ここはぜひとも愛するに至った経緯を知りたい。


「お待たせしました。それではいただきましょう」

「いただきます!」


 全員で手を合わせて言い慣れた言葉を口にする。そして真っ先にホカホカの大根に箸を伸ばす。「あつっ、あっつ」と言いつつ食べる大根の煮物は甘くて美味しい。料理上手なお嫁さんを貰えて、なんて兄は幸せなのだろう。


「あ、ところでさ……二人はどこで知り合ったの?」

「実は愛十さんと同じ職場でして、そこで、その……一目惚れしちゃったんです」

「お互い一目惚れだったんだよ。これは! って思っちゃってね、出会って一週間で告白したんだ」

「早くない?」

「し、仕方ないだろ! 誰かに盗られたらどうするんだ。善は急げだよ!」


 当時のことを思い出してか、佳代が恥ずかしそうに頬を赤く染める。


「もう佳代のためならこの命だって惜しくないさ」

「まぁ愛十さん、そんなこと言わないで。あなたがいなくなったら私、生きていけないわ。もし愛十さんがいなくなったら……どこまでも追いかけて、何が何でも離しません」

「できることなら同じタイミングで死にたいね」

「できることならじゃありません。絶対に二人一緒です」


 見つめ合って二人の世界に入ってしまった。しかしまぁ、死ぬ時も一緒か。純粋に、お互いのことを愛しているんだなぁと思いつつ、口に入れたみかんの果汁を搾り取る。すっぱい。


「みかん、おかわりあるぞ」

「ありがとうございます」


 佳代の父親からおかわりのみかんを受け取る。まさか惚気話が小一時間続くとは、この時は微塵も思っていなかった。

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