1.4『違う』

芙蓉は時折、彼のもとを訪れるようになった。

『月』だと教えられた、あの美しい輝くものの下、二人は格子越こうしごしの逢瀬おうせを重ねた。訪れる芙蓉と過ごす時間は楽しく、いつもすぐに過ぎてゆく。

人目を忍び、夜に家を抜け出してきてくれる芙蓉。そのため、そう頻繁に会うことができないことを、彼は寂しく思った。


……いつも傍にいてほしい。


そう願うことは間違っているだろうか。

十年以上生きてきて、彼は初めて『幸せ』を手に入れた。『笑う』ことを知った。

そして芙蓉と親しく接することで、ぎこちなくではあるが、彼は自分の感情を表に出すようになった。


しかしまた、彼は自分と芙蓉が『違う』ことも分かり始めていた。


芙蓉がきれいだと言ってくれた『金色の瞳』、他の村人たちが投げつけてくる『鬼の子』という言葉。

何より、その『鬼の子』である証拠ともいえる『人間』には有り得ない『あやかしの力』。


人には聞こえぬ風の声を聞き、風を従え、雨を呼ぶ。

それ故に、彼はとらわれ、またうとまれている。


-------この『力』さえなければ……


彼は、目の前に手をかざす。

明らかに自然のものではない風の流れが、彼の髪を撫でていいく。


-------『外』に出たい。もっと芙蓉と一緒にいたい……


人と親しくする喜びを知ったものの常として、彼がそう思うことは、ごく当たり前のことだといえる。


しかし、彼は知らない……


彼の力が、この水の恵みの少ない地で、すでになくてはならないものになっているなどとは……


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