15
あいかわらず、僕一人だけの砂浜なのに、どこからか聞こえて来る声は、
「さて、これはすべて夢でしたと言う結末にできないこともない」
少々唐突に僕にそんな提案をする。
「夢、どういう意味だ」
僕は、脅迫的に決断を迫っているように聞こえた、声に向かって、警戒しながら言葉の意義を問う。
しかし、
「意味などないよ。意味など何もないから、逆に意味を、――そうにもできるということだ。君はこのままこの中にいて、これを夢として、この中にずっと住み続けることだってできる」
やはり、あいかわらずの、答えの曖昧な声の言葉だった。
「これは……夢なのか?」
「知らないよ。それは君の判断することだ」
「ああ……お前はいつもそうだな。何にも意見がない」
僕は、声に少しいらついて、挑発にも聞こえるような嘆息を交えながら言うが、
「俺に、そんなことを言ってもしょうがない、俺は声だよ。声とは、そういうものだ……しかし」
声は飄々と僕の言葉を受け流して言う。
だが、
「『しかし』?」
「……声には言うべき言葉はある」
「じゃあ、それは何だ」
「歩きながら話そうか……」
「どっちに?」と僕。
「上に行こう」と声。
僕は言われるままに振り返り、斜面を上り始めた。
すると、声には姿はないけれど、僕には、その声の主が、ぴったりと僕についてきているように感じた。その声の主の姿を始めて感じたのだった。
ならば、僕は、今が「それ」を言うべき時であると悟り言う。
「僕はもうここにはいられない」
「なぜ」
「必要がないからだ」
僕がそう言うと、声が、その声の主が、優しく微笑んだような気がした。
そして、
「OK。その言葉を待っていた。それならば俺もここから消えることができる」と嬉しそうな声。
僕は、その声の言葉に、斜面を上っていた足を止め、振り返って光る砂浜を眺めた。海から吹き上げてくる風を感じながら深呼吸をした。
深呼吸が終わると僕は声に向かって言った。
「お前はここから消えて何処に行くんだ」
声が答えた。
「それは……俺は声だ。声の出るところに決まっている」
「それはここみたいなところか。僕みたいな奴のいるこんな場所か」
「そういうこともあるだろうけど、そうでないこともあるだろう。声のあるところに俺はいる。――それ以上のことは何も言えないさ」
「なるほど……」と僕は言いながら頷き、また斜面を上り始めながら、さらに言う。「ところで聞きたいことがある」
「なんだ?」と声。
「お前は、僕か?」
僕の質問に、声は突然、――笑い声となった。
「はは、それは違う、——俺は声だ。それ以上でも以下でもない、しかし……」
「しかし?」
「お前にも声はある。そしてその声は今、言うべきことを言う時で……」
そして僕は、「声」の言うとおりにすることにした。
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