13
「あれ?」
僕はちょっと前まで誰かと電話をしていたような気がしていたのに、今は砂浜に、手には何も持たずに一人で立っていた。何かとてもびっくりするような話を聞いたような気がするのに、――それにいてもたってもいられなくなったような気がするのに、――その気持ちは、どこかここではない世界に向かって慌てて駆け出して行ってしまって、いまここにいる僕にはそれは残っていない。
僕は、今まで確かに持っていたものが、次の瞬間には、自分から無くなっている、その不連続に、その不連続が世界の理になっているこの場所に、呆気にとられていたのだった。
しかし、声は、そんな呆然とする僕の様子など気にもせず、突然、質問してきたのだった。
「君はどう思う? ――死と言うのは全てを分つものなのかな?」
僕は、唐突に、脈略も無く質問してきた声に戸惑いながら、
「それはそうだろう。死んだ者にはもう会うことができない」と答えるが、
「そうかな?」と更に声が言う。
それに、
「そうだろ……?」と僕は、声が何を言いたいのか分からずに、自信の無さそうな声で言うと、
「……例えばだ。君には、小学校以来一度も会ったことのない知り合いはいるか?」と声は確信と自信に満ちた様子で言う。
それに、僕は、まだ声の質問の意図が掴めずにいたので、とりあえず、
「――いないことはない。近くに住んでいたが、小学校三年生に親の転勤で何処かに引っ越して行った同級生の男がいる」と答える。
すると、
「……そいつにこの後会うことはあると思うか?」
「さあな……でも、今ではもうなんのつながりもない奴だ。このまま一生なんの関わりも持たない可能性が高いだろうな」
「なるほど……じゃあ、もしかしてだが、――そいつがもう死んでいたらどう思う?」
僕はその質問に一瞬ドキッとするが、
「えっ……ああ、仮の話だよな」
「そうだ。俺は、もちろん、そいつが死んでるかどころか、そいつが何物なのかも、君とどう言う関係だったのかも知らない」
声が仮定の話をしていたのを知って落ち着く。
「ああ、まあ結構仲の良い友達だったが……それは置いといて、――死んでいたら悲しいし、残念だが……そう思えば複雑だな」
「複雑とは?」
「もし小学校の時のことしかしらない知り合いが死んだと言われても、実感がないと言うか、今、どんな奴になってるかも知らないし、――僕にとっては奴はずっと小学校の時の姿で……」
「君は多分そいつのことを、この後一生その姿で思い出し続ける。もしそいつがもう死んでしまっていても」
「ああ、そうだろう」
「もし、死んだとか聞かされなければ――君と完全に付き合いの切れているそいつの死は君に知らされない可能性も高いが、――それならば、死は、君はそいつを分つものではない」
「は? でも、もう会える可能性も無くなるんだぞ。それはやっぱり、『分つ』と言うんじゃないか」
「……もともと、もう会える可能性がない奴だったとしたらどうだ。それならば、そいつは君の思い出の中の人物。君の胸の中に生きていた人物だ。君の胸の中の生でしか君と関わらない男だ。それなら、そいつが生きていても死んでいても変わらない」
「……なんか随分なへ理屈だな、――お前の言いたいことは大体分かって来たが、やっぱりだいぶ無理がないかその理論。そりゃ、その言い方なら、俺の中の幼馴染み本人の生き死にとは関係なく生きていると言えるだろうが……」
「……へ理屈でも、理屈でも何でも良い。つまり、俺が言いたいのは、他人なんて、所詮、君の中に作り上げた生でしかない。その真実なんて相対的であやふやなもの何だということだ。だから何も死が分つことにならないかもしれないことと同様に……」
「……同様に?」
「君と誰かの人生は、死ではなく生が分つこともあるということさ」
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