第127話 最低な私
所謂、一種の、「アレルギー」なのだろう。
お兄ちゃんにとって私の身の振り方は。
それこそ日常生活に支障が出るほど。
自主停学を貰って、私はお兄ちゃんの傍に居た。
学校側も斟酌してくださいました。
一時的な単位不問処置で優遇してくれると。
凜ちゃんはいつも通り。
春人と五十鈴には説明してある。
あくまで私の都合について。
お兄ちゃんの問題は、二人には関係ない。
「お兄ちゃん……か」
「お兄ちゃん……!」
「止めてよ……本当に……っ!」
「お兄ちゃんは一人ぼっちじゃ無いんだから」
「私がいる。傍にいる。一生いる。ずっといる。だから……だから……生きることを諦めないで」
「お兄ちゃんが死んだら……私が一人ぼっちになっちゃう」
「絶対……何があっても私はお兄ちゃんを見捨てないから……だから自殺だけは止めて……!」
「罪深い……かな?」
過去までは、アレが全てだった。
それだけのために生きていた。
共依存。
その通りだ。
お兄ちゃんが居なくなれば、私は一人ぼっちになる。
変わっていくことの何と残酷なことか。
大切な人が出来た。
一人で泣く男の娘を守りたいと思った。
それすら罪だったのか。
そう懸念する。
「お兄ちゃんを一人にしないって……誓ったはずなのに……!」
なのにこんなにも春人を想う。
一人ぼっちのお兄ちゃんと。
一人ぼっちの春人と。
どっちを取れと?
どちらをとっても片手落ち。
どちらもが……私を必要としてくれている。
嬉しいことか。
喜ばしいことか。
賛辞すべきことか。
――けれど二人は別の世界の住人で。
――交わるはずもなく。
「どうしよっかなぁ」
私もまた、罪な悪女。
「しょうがない」
と言い訳することは出来る。
けれどソレは……言い訳以上には成らない。
何時だって「理由」も「理屈」も「肉付け」も出来る。
どんなことにも言い訳を立てられる私は、それだけで生き汚い。
――最低だ、私。
そりゃ自嘲もする。
お兄ちゃんを見捨てずに、春人を見捨てない方法を探している時点で割腹モノだ。辞世の句は詠めないけど。
「陽子……」
気付けば、
「お兄ちゃん……」
お兄ちゃんが目を覚ましていた。
「げほ……っ!」
咳に血が混じる。
「大丈夫?」
「俺は……俺は……」
「急性ストレス障害。ここまで運んだの。お医者さんがね。私には……何も出来ることがなかったよ?」
「あ……」
思い出したらしい。
「陽子は……離れるんだな……」
「考え直しているところ」
「何でだ?」
「お兄ちゃんが……大切だから……」
ソレは誓って嘘じゃない。
お兄ちゃんがどうしようもない孤独の中に居るなら、せめてその闇の中で抱きしめてあげたい。「一人じゃ無いよ」と囁いてあげたい。
「傍に居て……一生……」
「私に?」
「じゃないと……誰を信じて良いか……わからない……」
「凜ちゃんも?」
「恐いよ。他人は恐い。凜の奴は確かに安心できるけど……結局俺にとって一人じゃないのは陽子在ってこそだ」
ああ。
お兄ちゃんだ。
コレは確かに……お兄ちゃんだ。
「最低な妹だね……私……」
「そんなことない。俺には陽子が必要だ……」
「だから……最低……」
お兄ちゃんを知っていて、それでも春人を切れない私が。お兄ちゃんが大切なら春人を切り捨てれば良い。ソレが出来ないから私は最低なのだ。
「大丈夫だよ。邪魔者は全部消すから」
「俺もか?」
「お兄ちゃんには生きて欲しい。私もだけど、凜ちゃんも願ってる」
「じゃあ!」
「うん」
見捨てたりしない。
するもんか。
きっと全ては繋がっていて、だからしがらみを断ち斬るなら、どうしても一つの答えに辿り着く。
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