第125話 私は私のままで


 十月も中頃。


 中間考査が始まり、終わった。


 殊更充足感も無い物だけど、しがらみからの解放は肩を軽くする。


「学年一位……と」


 張り出された成績表に、私は気怠げな視線を向けた。


 毎度のこと。


 努力の甲斐があったわけだ。


「で、どうするかね?」


 レターを持っていた。ラブリーなソレだ。なんだかシンデレラ役からコッチ、異様に注目を集めているような。私は然程ですか? 無粋を承知で目立っているけど、仲良くも為っていない赤の他人が私にどんな幻想を持てるのか? それは少し気になる。


「告白……?」


「かもね」


「いや他に無いんじゃ?」


「かもね」


 春人と五十鈴も、意見は一致しているようだ。私だってあまり信じたくないにはしても、これがどういう意味かは悟っている。


「ふじこ……」


「わぅん」


 懐かれてるのかな? お二方揃ってイケメンですし。愛すべきアホウかと。


「才色兼備……」


「完璧乙女」


 そんな小分けにされてもね。一種の差別じゃない?


「嬉しくないな」


「褒めてるよ……?」


「妬んでもいるけど」


 そこら辺の付き合いは長い。


「いいんじゃない?」


 誰かを褒めることも妬むことも、人生では、在るだろう。


「春人も告白されてるよね」


「その……男子から……」


「可愛いし」


「えへ……」


「喜ぶの?」


 とは五十鈴のツッコミ。


 こんな奴なんです。


「浮気しちゃダメよ?」


「陽子さんだけが……傍にいてくれた……」


「それを欲しがってるように見えたから」


「お父さんもお母さんも……してくれなかった……」


 ――仕方ない。


 そんな言い訳は通じない。


 子どもを産んでおきながら、「孤立させた」は確かにある。


 死者を裁判に掛ける法律が無いだけで、無責任は確かにそうだろう。だから春人は道を踏み外したのだから。


「私は私のままで、春人に付き合ってるだけだよ」


「それが……嬉しい……」


 恐悦に存じます。でも全部自分のためだったりして。私だって春人の素顔には思うところもあるのだ。結局の様子、面食いなのかもね。


「じゃ、テストも終わったし、カフェ行こう?」


「賛成……」


「いいね」


 そんなわけでこんなわけ。


 私たちは喫茶店に入った。


 三人揃って紅茶とケーキのセット。


「世界平和を実現するには?」


「地球破壊爆弾」


「温暖化は?」


「ロビー団体の殲滅」


「鯨を食べるには?」


「釣れば良いんじゃない?」


 なんてくだらない話。


 けれどソレが貴い。


「ていうか鯨は骨まで活用出来る万能食材だよ?」


「明かりを付ける油の確保に外国人が乱獲しただけなのにね」


「南無三……」


 紅茶を飲んで、ケーキをホロリ。


 うむ、美味し。


「ほんと、絵になるよね?」


「春人は可愛いから」


「ふじこ……」


「春人もだけど、陽子も。最初から分かってはいたけど……こうしてマジマジと見ると、ちょっと圧倒されるよ」


「さいですか。まぁ茶髪は珍しいよね」


「御尊顔の話」


「ある程度は認めてる」


「どれくらい?」


「ガソリンの燃費くらい」


「うーん。微妙」


 つまりその程度で。


「春人は?」


「萌え」


「あう……」


「気後れすな」


 とは五十鈴のジト目。いや、春人はこんな奴なんですよ。これが彼のアイデンティティ。そこは否定能わざる。


「可愛い……かも?」


「実際に呟きサイトで万単位のフォロワー持ってるし」


 しかも今のところ男だとバレていないオマケ付き。


 男の娘だなぁ。


「いいなぁ」


「私が? 春人が?」


「どっちも」


「お似合いかな?」


「良いコンビだと思うよ」


「恐悦至極」


 なんかそればっかり言ってる気もする。

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