第124話 風紀違反


「で、この時のグラフは……」


 とな具合で試験勉強。


 相手は春人と五十鈴。


 なんかこの三人で固まった感じ。


 排他的とも言う。


「ふやぁ」


「ふむふむ」


 二人は、真剣に、私の講義に聴き入っていた。


 放課後。


 市立図書館でのこと。


 学生スペースの一角を借りて。


 例外的に飲み物の持ち込みが出来るので、ダラダラする分には最適だ。そうでなくとも嫌な目線は少ない方が心的に助かる。


 学校の図書室も悪くないけど、飲み物は持ち込めない。


 その点を加味して市立図書館。


 ついでに本も借りられる。


 私自身は既に勉強を終えている。試験範囲は網羅したつもりだ。継続が力な面もあるので、勉強は欠かさないけど、


「さほど焦るスケジュールでもない」


 も、また事実で。


「よくもまぁ」


 と五十鈴が感心していた。


「お、陽子」


 其処に声が掛かる。


 大和男児だ。


 私たち三人とは違う……黒髪黒眼の。


 制服は絵馬高校の。


 神威。


 おなちゅーの碓氷神威だ。


 夏にフった奴。


「何? 勉強?」


「さいです」


「ていうか陰キャ止めたのか?」


「可愛くなりたかったので」


「もうちょっと早く気付けや」


「面倒事との合算ですよ」


 天秤とも言う。


 予算配分の例もある。国策の民営化に順ずる。要するに今更な問題だ……でファイナルアンサー。


「良い事でもあったのか?」


「彼氏が出来ました」


「…………」


 スッと五十鈴を見やる神威。


 ま、確かにイケメンだけど。


「あー」


 なに納得してる。


「両手に花?」


「かもしれません」


「わお」


 最後のは五十鈴の茶化し。


「マジそっちの方が可愛いぞ」


「知ってるよ~」


 いわれるまでも無い。


 散々言うが、見慣れた顔だ。


 レベルはともかく、お下げと眼鏡が似合わないのは言われるまでも無い。


「もう抱かれたか?」


「責任取れないでしょ?」


「そこは考えてるんだな」


「キスしたら妊娠するからね」


「……………………さいか」


 何さ。


 その反応。


 ちなみに堕胎は結構エグい施術だ。


 聞くだけでやりたくない。


 なので婚前交渉はしない。


 これは誓って本当。


「この分じゃ俺の出る幕はないな」


 最初から無かった気もするけど。


 残酷な天使。


「とりあえず窓辺から飛び立つことを考えよう」


「氏ねと?」


「高さにも因るんじゃない?」


「むぅ」


 言いつつ、英語の訳し方を再確認。


「やっぱ頭良いのか?」


「人後に落ちない程度には」


「泰山高校ってだけでわかりゃするんだが」


「草履履く奴。履かせる奴」


「それまた草履を拾う奴……か」


「そんなわけで勉強中なので」


「私語は失礼をば」


「宜しい」


 何様だって話だね。


 春人が怯えているので、そこをフォローしただけなんだけど。人見知りは健在のようだ。大人の男性には積極的なくせに。


「じゃあ、俺は行くわ。また今度付き合ってくれ」


「暇があればね」


「へぇへ」


「陽子さん……」


「神威。知ってるでしょ」


「知ってるけど……」


「夏にフったのよ」


「なんで……?」


「春人が好きだから」


 チュ。


 軽くキスする私でした。


 春人の唇は甘い味がする。恋の魔法がそうさせるのか。それは神のみぞ知るところなんだろうけど……ロマンスの神様?


 八百万にいるのだろうか?

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